……7月1日(金) 18:00
諸々が千々に降下してくる夏々の日々
第四章 大きくて小さい子・大きいけど小さい部屋
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「ハルカちゃんがさ、ユカちゃんの携端の電波止めてるって」
「は? 意味分かんないけど」
そう言いながらユカちゃんは自分の携端を、個人用と防衛隊用のふたつ取り出した。
通信状態の確認をすると、確かに通信ができない状態になっている。それを見てユカちゃんが青くなった。
「え? なにこれ?」
「ハルカちゃんが、電波止めてるんだって」
「それはさっき聞いた。どうやったらこんなことできるの? この家屋が通信できない素材でできてるとかじゃないの?」
「私は携端使えるよ」
私は自分の携端を取り出して、学校の端末にリモートで接続してみせた。
「窓は!?」
「私、ここでは携端の電源を入れないよ」
「……どういう意味?」
「ハルカちゃんのことと幹侍郎ちゃんのことを秘密にして欲しいって、最初に言ったでしょ? 窓ちゃんはその約束を守ってくれるって意味」
窓ちゃんがうんといって首を縦に振ってうなずく。
「それは秘密にしていれば良くて、電波は関係ないでしょ。佐々也もそうだし」
「あー、それはね、防衛隊だからだって。ハルカちゃんが言うには、防衛隊の携端は位置情報を止めることができないし、その気になれば割り込みができる特権コードがあるから、流用して盗聴とかにも使えるんだってさ」
「は? だったら私の個人端末は関係ないでしょ!」
「ハルカちゃんが言うには、ライフログの録音を嫌ったらしいよ」
「なんで私のライフログのことなんて、ハルカが知ってるのよ!」
めちゃめちゃ怒っている。とうとうハルカちゃんが呼び捨てになってしまった。
「それは多分ハルカちゃんが銀沙生物だから。それが理由で金属利用の電気関係とか機械全般にすごく強いんだってさ」
「仮に金属同士で相性が良くて機械に親和的だとしても、現代社会の通信規格とかソフトウェアの使用目的とか、そういうの知らないと狙って妨害なんてできないでしょ! 詳しすぎておかしい! そこまで知ってるなら、逆に宇宙から来たとはとても思えない!」
私も同じことを疑った。
実に真っ当な疑念だと思う。
「私も、転校初日からダイレクトメッセに割り込まれたからね。同じ疑いを持った。さっきも言ったけど、ハルカちゃんの世界は太陽系文明起源で源流が同じだからその辺は推測しやすいんだそうだよ。しかも、あっちのほうが相対的に八千年ぐらい進歩してることになるから、こっちは原始時代みたいなもんだってさ」
「そんなの都合良すぎ。ご都合主義」
「その気持ちはわかる」
私はユカちゃんの正面から手を伸ばし、肩をぽんと叩いてうんうんと頷いてみせる。
心からの同意だ。
とはいえ私はハルカちゃんの話を信じてる体裁で話をしているけど。
でも、疑わしい事があった場合に、即座に疑う側に切り替える姿勢を忘れないでいこうとは思ってる。
「っ……!!!」
ユカちゃんが絶句してる。
文句を言いたいけど、なんて言えばいいのか思い浮かばないのかも。
ここで悪口を考え終わるまで待ってあげる必要もない。
次の話に移っちゃおう。
「それで、幹侍郎ちゃんとハルカちゃんの話は、秘密にしてもらえる?」
「! ……っ!!」
ユカちゃんはまたなにかを言おうと口をパクパクしてるけど、やっぱり言葉が出てこない。




