……7月1日(金) 18:00
諸々が千々に降下してくる夏々の日々
第四章 大きくて小さい子・大きいけど小さい部屋
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「あの子、あんなに懐いてたのに、佐々也にも秘密だったの?」
「私には言おうとした事もあるらしいんだけど、言い出せなかったんだって。で、この前のTOXのときにあの穴が私と窓ちゃんにバレて、その時に秘密にしてほしいって言って幹侍郎ちゃんを紹介してもらったんだ」
「襲撃の日って、ついこの間じゃん! えーと天宮さんの転校とどっちが早いんだっけ?」
「二〜三日だけど、ハルカちゃんの転校のほうが早い。私がこの家に住み始めたのも同じ日。宇宙から来たばっかりでハルカちゃんの住むところ無いけど、女の子一人でゴジの家に引き取らせるのは外聞が悪いからって、付き添いで住み始めたんだ」
「あんただって女の子でしょうに」
「まぁ、私はゴジとは姉弟みたいなもんだし。……ああそうだった。それから、なんでゴジの家に女の子が住んでるかって聞かれたときに、ハルカちゃんだけだとゴジが言い訳しなきゃいけないけど、私が一緒なら私が言えばいいからって話もあったんだ。こうして実際に聞かれてみると実用的な判断だったな。私が説明するのはぜんぜん負担じゃないや」
「兄妹……ねぇ……」
ユカちゃんがそういいながらちらっと窓ちゃんの方を気にする。
窓ちゃんは気がついたみたいだったけど視線は無視。無表情で目前の方に視線を固定している。さっきまでニコニコしてたような気がするんだけど、ユカちゃんばっかり見てたから窓ちゃんの表情の変化はよくわからない。
* * *
「そういえば、天宮さんの話って本当なの?」
「私に聞かれてもね……。あの身体のことがあるから、私はいちおういまのところは信じてるよ。ただ、ハルカちゃんが口で言う通りの身の上かってのはなんにも証拠がない。だから、信じるかどうかってだけだけど」
言い方を変えると、疑うほどの根拠がないから仮に信じているような態度をしているだけ、とも言える。信じていることと、信じているような態度をしていること、それがどれぐらい違うのかはよく分からない。疑いを持つようなできごとがあった時にまた改めて態度を決めることにして、決断を先延ばしにしているだけかもしれない。
「ふーん。でも私は、その身体の事も見てないからねぇ」
「自分で断ったんじゃん……。まぁ、知らないで目の前で腹を刺せって言われたら私も止めるような気はするけどね。指を見せてもらった時もまさか切断するとは思ってなかったし、お腹を刺されたときは戦ってるときの負傷みたいなものだったからなぁ」
とはいえ、幹侍郎ちゃんに比べて、ハルカちゃんの話がもう一段階信じられないというのは無理もない話だ。仮にあの身体が銀沙でできているというところまで納得したとしても、それはダイソン球の外、旧太陽系から来たということの証拠にはならない。
正直なところ、ダイソン球の外の話はあまりにも荒唐無稽であると感じていて、私だってまだ半信半疑だ。あえて言うなら、作り話としては不自然だから嘘だと決め込むにしても材料が足りないというぐらいの話だ。
あとは最初のインパクトが強かったので、つい流されて信じても良いような気持ちになっただけじゃないかという気がしている。
最初のインパクト……。
衝撃が強い話?
私もなにか、ユカちゃんに言わなきゃいけない衝撃的な事実があったような……。
あ、思い出した。
「ユカちゃんにひとつお伝えしておきたいことがあります」
「は? なによその喋り方。気持ち悪いなぁ」
繰り返しになるけど、ユカちゃんは私をなんだと思ってるのか……。
まぁいいのだ。ここには異化効果が必要だ。受け入れに心構えが必要な話を伝えるのだから、いつもと何かが違うことに気がついて貰う必要がある。ユカちゃんはそれには気がついた様子である。『私の喋り方がいつもと違う』から『気持ち悪い』までの速度が早すぎるだけだ。
なんでそこの速度が早いんだよ。
いやそれはまぁいい、本題ではない。
「ハルカちゃんがさ、ユカちゃんの携端の電波止めてるって」




