……7月1日(金) 18:00
諸々が千々に降下してくる夏々の日々
第四章 大きくて小さい子・大きいけど小さい部屋
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「私もゴジにちょっと聞いただけの話だからそんなに詳しくはないんだけど、この前までのゴジが引きこもってた時期に能力で幹侍郎ちゃんを作ってたんだって。しかも、自分ではなんで作ろうとしたのかとか、どうやって作ったのかとかはよく覚えてないんだってさ」
「能力で出したのに覚えてない? そんな事ある?」
「ゴジがそう言ってたって話だから。能力がどう働くかなんて私は知らないよ」
「能力だって手足が動くのと変わらないよ。あんただって記憶にないのになんか作ってたりとかしないでしょ?」
ユカちゃん自身も能力者だから、ユカちゃん自身の体験に基づいた理解がある。ユカちゃんからすると、使おうとしていないのに能力が使われてしまうのはおかしなことなんだろう。
私には能力はないから、自分の実感と違うなんてこともない。
「ユカちゃんはそうかもしれないけど、ゴジの能力はもともとゴジが仕組みを知らないままで出せるんだよ。だから知らないうちに使っちゃうこともあるのかもしれない。それに、ゴジが引きこもってた時期って、神指のおじさんとおばさんが亡くなったからだから、精神的に安定してなかったって言われても『まぁそうだろうな』って感じだし」
「ふーん。……そんなもんかねぇ。防衛隊で能力者の知り合いも多いけど、聞かない話だわ」
私にも私なりの理解がある。
ユカちゃんは能力者で、能力者の多い有志隊員の中に居る。私は能力者の知り合いは少ないけど、防衛隊でない能力者であるゴジのことが一番身近だ。
だから、防衛隊とそうでない能力者の間に、質的な違いがあるかもしれないことを自然に受け入れられるのかもしれない。
「そりゃ防衛隊にいるのは戦力になる能力者なんだから、使い勝手のいい能力の人が集まってるんだよ、きっと」
「……。それはそうかもね。そういえば、署長がそんなこと言ってるの聞いたことある」
「いや知らないけど。ただまぁ、経験が理解の役に立つ場合と役に立たない場合があって、起きてしまった出来事については経験を元にして『起きたことを否定』はできないんだ。起きたと思った出来事の間違いを見抜くことはできるかもしれないけど。あ、いや……。もちろん、そういう場合でも経験がまったく役に立たないわけじゃなくて、例えば未知の出来事で見通しが立たない場合なんかでもこれからなにが起きそうなのかを予想する役には立つんだけどさ。でも、起きた出来事を否定はできない。ゴジが自分でもわからないうちに幹侍郎ちゃんを作ってしまったというなら、まぁそれが実際に起きた出来事なんだよ」
「……護治郎が嘘を言ってないならそうなるね」
「私にはゴジを疑う理由がないもん。その時期にどんな様子だったのかも、見て知ってるから、意図的にやっていたとも思えないし」
「ふーん……」
ついまくし立てちゃったけど、胡散臭そうにしながらもユカちゃんが顎に手を当てて考え込む。私が言ったことを真面目に考えてみてくれてるんだろう。
数秒考えて、納得したらしい。
「ま、そうかもね」
さすが優花子。賢い子だよ。
「でも佐々也、あんたなんか偉そうだよね……。別によくわからない出来事の専門家でもなんでもないのに」
「いやこれが、ハルカちゃんのこともあって最近では二件目。経験豊富なのよ」
「経験は役に立たないんじゃないの?」
「私は否定してないでしょ? 目の前の出来事を受け入れる役に立ててる」
「……」
ユカちゃんがまた考える。
さっきより長い沈黙。
「……ほんとだったわ」
さすが優花子。賢い子だよ。
「あ! 護治郎が学校に戻ってきたのって、半年前ぐらいだっけ?」
「そんなもんだね」
「半年前ね……」
半年がなんだっていうのか、ユカちゃんは特に口にしない。
それから、ゴジから聞いた幹侍郎ちゃんの話をユカちゃんに話して聞かせた。
地下の空洞は幹侍郎ちゃんを作ったときの材料であること。出口がなく、幹侍郎ちゃんはあの場所から出られないこと、生まれたときからあれぐらいの知能であったこと、動力は不明だが食料も必要でないこと、幹侍郎ちゃんは地下の生活にも特に不満は言わないこと、ゴジは幹侍郎ちゃんがこのまま地下に居れば良いとは思っておらず、隠しきれるとも思っていないこと。そして、つい数日前まで私にも秘密にしていたこと。
「あの子、あんなに懐いてたのに、佐々也にも秘密だったの?」




