7月1日(金) 18:00
諸々が千々に降下してくる夏々の日々
第四章 大きくて小さい子・大きいけど小さい部屋
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いざ帰ろうと席を立つとき、幹侍郎ちゃんにはちょっとむつかられたけど、また来るよと約束して地下を後にした。
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7月1日(金)
18:00
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戻り道の地下通路、ユカちゃんが喋らないので黙念としながら地下通路を登ってゆく。
帰りのはしごは運動神経の良い窓ちゃんが先に上がって、登ったところで手助けをしてくれた。はしごを上りきって、最後に靴を脱ぐ。
『私の部屋でおしゃべりしてる』
という書き置きを会議室に残して、二階に割り当てられた私の部屋へ。
ここで暮らし始めてまだ一週間ほど。
ちょっと散らかり始めてるけど、そもそも物が少ないから散らかり具合にも限度があって人が来ても安心だ。
「いやあ、でもアレよね。佐々也は普段あんななのに、子供相手をするのがあんなに上手いとは思わなかった」
ユカちゃんも考えをまとめる時間が必要だろうと思って喋り始めるのを黙って待っていたんだけど、口を開いたかと思ったらこれだ。なんだこいつ、失礼だな。
まぁユカちゃんの口が悪いのには慣れてるけど。
でも、後半はよく分からなかった。
「こどもの、あいて……? ああ、幹侍郎ちゃんか」
「最初見たときはどうしようかと思ったけど、言ってた通り、ほんとに子供だったわ」
「そうね。小さい子。意地悪したらかわいそうだから、護治郎くんが優花子に会わせるのを心配してた。優花子が泣き出さなくてよかった」
窓ちゃんが答える。
「えっ? あんな小さい子に意地悪なんてしないよ」
「……違うの。わざと意地悪するんじゃなくて、最初に見ただけで拒否するとか、怒るとか、そういうやつ」
「ああそれね。正直、ちょっと危なかったわ」
「……なら良かった」
興奮しているのか、ユカちゃんがちょっと調子に乗って喋っている。付き合いが長いから、この子が意外と調子に乗りやすいのは知ってるんだけど、本人はどうもそのことにあんまり気がついてないらしい。でも、ここで私がなんか言うとツッコミ役に戻ろうとするのか、急に冷静になるのであんまり面白くならないんだよな。
ここはこのまま窓ちゃんに任せよう。
「ふふふ。でも、幹侍郎くんが近づいてきたときと、話しかけられたときの優花子の顔……。ふっふふっ。思い出しただけで可笑しい」
いや、話しかけられた時はともかく、近寄ってくる時は驚くだろ。
私はいまでもちょっと怖い。
「しょうがないでしょ……。あれだけ大きいし、それに見かけも巨大ロボ? アニメに出てきて悪と戦いそうな感じなんだから。ビームとか出しそう」
「それ、本人に言っちゃ駄目だよ」
優花子ちゃんの言葉に、窓ちゃんが釘を刺す。
「あの子、気にしてるの?」
「まだわからないけど……。いつか思い出して、悲しい思いをするかもしれないからって……、護治郎くんが」
「護治郎ねぇ……。気の回し過ぎなんじゃないかなぁ。それにこれからって、あの子は何歳なの? 五歳ぐらい?」
「それは……」
ユカちゃんの質問に窓ちゃんが詰まって、私に視線を送ってくる。
私とユカちゃんで幹侍郎ちゃんに関する知識は同じなんだけど、説明が難しいといえば難しい。確かに窓ちゃんは、言いたいことがあっても説明するのがあんまり上手くない。得意不得意ってのはあるもんだ。
窓ちゃんのヘルプを拾って、私が話を引き継ぐ。
「ゴジが言うにはまだ一歳にもならないってさ。でも、勉強は小学校高学年のやつをやってる」
「は? ……ああ、ロボットだから作られたのが最近って話? だったらもっと大人のロボットを作る方が色々とやりやすいだろうに」
「私もゴジにちょっと聞いただけの話だからそんなに詳しくはないんだけど、この前までのゴジが引きこもってた時期に能力で幹侍郎ちゃんを作ってたんだって。しかも、自分ではなんで作ろうとしたのかとか、どうやって作ったのかとかはよく覚えてないんだってさ」