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諸々が千々に降下してくる夏々の日々  作者: triskaidecagon
第四章 大きくて小さい子・大きいけど小さい部屋
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……7月1日(金) 17:00

諸々が千々に降下してくる夏々の日々

 第四章 大きくて小さい子・大きいけど小さい部屋


――――――――――― ――――――――――― ―――――――――――

「あれ、部屋が広いの?」

「そう。広いよ。すごく」

 小さな兆候から色々なことを思いついて質問してくる、ユカちゃんは目端の効く子だなと改めて感心する。実戦担当でないにせよTOXとの戦いに身を置くと、こういう警戒心が身につくのかもしれない。

「幹侍郎ちゃーん! 今日は窓ちゃんの友達を連れてきたよ!」

 扉の先はかなり広い空間だ。高さおよそ二十五メートル。幅は高さの倍ぐらいで奥行きは更にその倍――倍の倍だから百メートル――ぐらい。

 かなり高い天井や天井周りを見ると土の山を彫り抜いたような洞穴という感じだけど、床と壁の下の方はここまでの通路と同じような金属に覆われた人工的な造りになっている。天井の所々にはかなり明るいライトがついていて、その照明までの距離で、その天井がかなり高いということが分かる。

 暗い所から明るい所に出た時に目が馴れるのに少し時間がかかってしまう。それと似た感じで、これまでの等身大の通路から広大なこの部屋に出てくると、スケール感に身体が慣れるまでにほんの僅かな――一瞬の三倍ぐらいの――時間が必要だ。建物から出た時、方向を定めて歩き始める前にちょっとだけ立ち止まるあの感じ。

 ここは屋根付きではほとんど見ないような広大な空間だ。国際試合をするようなスポーツの体育館とかだとこれぐらいの広さはあるのかもしれない。私はそんな体育館に行ったことがないから想像だけど。

 私達が出てきたのは部屋の一番下である床面の高さではなくて、横壁の下から五メートルぐらいのところにある縦横三メートルぐらいのデッキ。

 地下道という地面の低い所を歩いてきて、部屋の一番低い場所に出てきたわけではないというのがまた少し感覚を狂わせる。ここは言うなれば地下室の中二階みたいな場所だ。

 扉の目前がこのデッキで、その左右から中二階によくある見下ろしのできる幅一メートルほどの壁沿い通路が伸びている。通路には下に降りる階段もあるけど、まだそっちには行かないでデッキの上に留まる。後続のユカちゃんのため、ドアの前から横に退いた。

「うわ、ひろっ! なにここ……」

 ユカちゃんが入ってきて驚いて足を止めていたが、後ろの窓ちゃんに押される形でしっかり部屋に入ってきた。

「あっ! お兄ちゃん! 佐々也ちゃんと窓ちゃんとハルカちゃんも! わーい」

 部屋の奥でうずくまっていた幹侍郎ちゃんが、四つん這いの状態でこちらに近づいてくる。

 と、私は幹侍郎ちゃんを知ってるからこう見えるけど、ユカちゃんにはどう見えているのか。

 小山ぐらいある大きな機械の塊が(うごめ)いてから、こっちに突進してくるように見えたかもしれない。

 幹侍郎ちゃんは横着をして四つん這いのままでこっちに来て、デッキの前に顔を見せた。顔の高さは丁度よくデッキの真ん前ぐらい。そして最後に片手をデッキの欄干にそっと乗せる。

 ゴジ、私、ハルカちゃんは、幹侍郎ちゃんの手の指先を思い思いに触ったり、軽く叩いたり。手の大きさ手首から指先までではだいたい人間の身長より少し大きいぐらい。指一本がだいたい人間の脚一本ぐらいのサイズだ。すごく大きいけど、大きすぎてなにを見ているのかもわからない、というほどの大きさではない。

 窓ちゃんが断固たる決意でユカちゃんを引っ張って幹侍郎ちゃんの手の方に近寄る。ユカちゃんの表情からは内心の葛藤を見て取ることができるけど、強く抵抗することはなく窓ちゃんに連れられて幹侍郎ちゃんの手の方におとなしく近づかされてゆく。

 窓ちゃんは幹侍郎ちゃんの指を叩くのではなくて、優しく触って大きく撫でた。

「幹侍郎くん。これが私の親友の優花子(ゆかこ)。よろしくね」

「シンユウってなに?」

「親友は、一番仲良しの友達のこと」

「へーっ。ゆかこ……ちゃん?」

「そう。優花子も、幹侍郎くんに挨拶してよ」

「幹侍郎くん?」

「うん、ぼく幹侍郎!」

「私は優花子。あの……、はじめまして」

「はじめまして。優花子(ゆかこ)ちゃんは、窓ちゃんのシンユウなの?」

「親友……。そうね、そうだと思う」

「女なの? 少し大きいね」

「へ?」

 幹侍郎ちゃんの質問に、ユカちゃんが絶句してる。

 まぁ、答えにくいよな。

 この先は私が引き取ろう。

「そう。ユカちゃんも女だよ。そういえば、私と窓ちゃんとハルカちゃんは偶然背が同じぐらいだもんね。人間は色々な大きさがある。男より大きい女もいる」

「ぐうぜん? ぐうぜんってなに?」

「偶然はたまたまってこと」

「ボールのこと? ふたつ?」

「たまたまは……、誰かがわざとやったんじゃなくてもそうなってるってこと。……かな?」

 ゴジの方を向いても、ゴジは焦ったように首を振ってる。

 概念って説明しづらい。

「ふーん」

 言葉の説明をしていると、幹侍郎ちゃんはどうもそっけなく、興味を失った様子になって、温度差にちょっと焦る。気に触るようなことを言っちゃったかなという気がするんだけど、これまでの付き合いから察すると、これはどうもそういうことでなくて彼の中で咀嚼をしているということらしい。

 普通の人間の子供がどんなだったか思い出せない。こんなだった気もする。

「じゃあ女と男はどこが違うの、佐々也ちゃん?」


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