7月1日(金) 16:30〜17:00
諸々が千々に降下してくる夏々の日々
第四章 大きくて小さい子・大きいけど小さい部屋
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だから、なんでか知らないけどハルカちゃんは機械を遠くから操れる、ぐらいの認識でいる。仕組みはさっぱりわからないけど。
それより、他にも気になったことが他にもあるから、いまはそっちを話題にする。
「ゴジの機械も地球の機械に入るんだね……。能力の産物だから別の物かと思ってたよ。壊れたやつを分解したことがあるんだけど、ネジとか基板とか見慣れた感じのものじゃなかったけどなぁ」
「私からすると他の機械と仕組みはそう変わらないように見えるけど……。もしかして、佐々也ちゃんが言ってるのは工業規格の話なんじゃない?」
「工業規格……」
見える? 見えてるの? 目で? 透視? たぶん違うだろうけど。
想像とは違うんだろうなぁ、ということだけ想像がつく。
工業規格というのは、つまり見慣れない部品だとかそういう話なんだろうか?
よく分からない。
まぁ、超能力の話だから、わかりやすく理屈が通じる話でもないのかもしれないけど。
ハルカちゃんの話をそのまま解釈すると、つまりゴジは工業規格にとらわれないけど、地球上の知識体系内の物理法則にとらわれた機械を出しているということなんだろうか。たとえば電子的なスイッチには電気を信号に読み替える仕組みが必要になってくると思うけど、ゴジは規格を知らないから分解してもそれっぽい部品が見当たらないけど、原理を知っているからスイッチを作れたということなんだろうか?
むしろ工業規格はなんとなく見て知ってるけど、機械の仕組みとなる原理の方を知らないという、ゴジの知識状態としては逆のほうが信じやすいんじゃなかろうか。
「辻褄、合わなくない?」
「辻褄と言われても……。私はわかる範囲のことをそのまま言っただけなんだけど……」
「ああ、そうだっけ。改めて考えると、能力って不思議なもんなんだね」
私が感心して呟くと、なんとなくみんなが黙り込んでしまった。
なんで黙るんだ。不思議だと思わんの?
「……佐々也ちゃん。それはみんなそう思ってると思うよ」
沈黙の中、いつもなら言葉数の少ない窓ちゃんがツッコミを入れてくれた。
そうかぁ。
当たり前過ぎて、とぼけてるだけなのかどうかみんな判断できなかったのか。
ボケで言ったわけじゃなくて本当に感心したんだけどなぁ。
「それで、通路の電気は消したほうが良い?」
「必要ない。……というか、むしろやらないで欲しい。スイッチを切ったらどうなるか、やったことがないからわからないんだ。幹侍郎に悪い影響が出ないとも限らない。急いで確認する必要があることでもないから、そのままにしておいて」
「うん、わかった。機械の動作が系外にどう影響するのかは、やってみないとわからないもんね」
「……」
「ああ、うん。そうだね」
ゴジが返事をしないので、話を引き取って私が返す。
ハルカちゃんはたぶん正しいことを言ってるんだろうけど、なにを言いたくてこう言っているのか正直よくわからない。経験上、考えたらまぁなにを言おうとしているのかぐらいはわかるんだとは思うけど、相槌の速度で答えを返すのは無理だなあ。
ゴジがやめて欲しいと言ったことをやらないでいることに同意をしたというところまでは分かる。そう思えば、いまみたいな生返事で用が足りるんだからそれでいいと思うしかない。
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7月1日(金)
17:00
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「幹侍郎! お兄ちゃんが来たよ!」
通路が最後に行き当たる。
突き当りは大きな鉄製の扉。
一緒に歩いては来たけど、前列のゴジと窓ちゃんから、私とユカちゃんは一〇メートルぐらい遅れている。振り向いてなにも言わずに私達の到着を一応待ってから、ゴジは扉を押し開けながら大声で呼びかけた。自動ドアではなくて手動。大きな扉だけど、動きは滑らかで大きな力が要るわけではない。
ゴジの声は扉の向こうの空間に吸い込まれてゆき、反響が返ってこない独特の余韻になる。
扉の向こう側は暗くはないものの煌々としているわけでもなく、茫洋とした空間だけが目に入り、調度や壁や天井など、特定のものがすぐに焦点に入ってくる感じではない。
「あれ、部屋が広いの?」
「そう。広いよ。すごく」
ゴジに続いてハルカちゃん、それに続いて私。
開けた扉をくぐりながらユカちゃんの質問に答える。
小さな兆候から色々なことを思いついて質問してくる、ユカちゃんは目端の効く子だなと改めて感心する。実戦担当でないにせよTOXとの戦いに身を置くと、こういう警戒心が身につくのかもしれない。




