……7月1日(金) 16:30
諸々が千々に降下してくる夏々の日々
第四章 大きくて小さい子・大きいけど小さい部屋
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隠し扉の先の通路は下りのゆるい坂道になっており、しばらく降りてゆく。
床は金属製だけど、出っ張りや切れ込みがあって滑りにくい。ライトは青みがかって微妙に暗くてどことなく不安を煽る。この辺はゴジの機械だから、あんまり細かい調整はできなかったんだろうと思う。
この通路のどこが機械なのかっていうのをゴジに聞いてみたところ、電灯の部分が機械なんだそうな。通路は電灯の付属品。
……そういうものだろうか? そういうものかもしれない。
機械部分とおまけ部分の主客が逆なんじゃないか? チョコのおまけにキャラクターのカードがついてるお菓子みたいな欺瞞を感じる。おまけが本体ってやつ。とはいえ、ゴジによると大抵の機械には外装とかスイッチとかのメカニカルな機能を担っていない部分があって、その扱いなんだとか。最近ゴジが作ったものだと、裏口の自動ドアの戸板とか戸枠とかもそうだと言っていた。言われてみると、自動ドアの自動じゃないドアの部分はあんまり機械って感じはしないし、そこがないと自動ドアは成立しないし、というジレンマを感じる。
ゴジがやってることをゴジが説明してるんだから、理屈が正しいかどうかは置いておくとして、とりあえず現象としてはそのように機能しているのだろう。とりあえず機能だけするというあたり、ゴジが出す機械と同じだ。妙な一貫性があって、よくわからない納得感がある。たぶんこの説明の性能もそんなに高くないんだと思う。
「ねぇゴジ。ここの通路のライトって消せるの?」
「え? 知らない。考えたこともなかった……」
ふと思いついた疑問をゴジにぶつけてみたけど、返答はにべもない。
「照明つけっぱなしでいいの?」
「電気代がかかってるわけじゃないからなぁ、別に」
「え……。どこから電気取ってるの?」
「果たして電気なのかどうかも……。僕は機械を出せるけど、出した機械の仕組みが解るわけじゃないんだよ……」
「そういえばそうだった」
難儀な……。
これ大丈夫なのかなぁ、と思っていると、ハルカちゃんが声をかけてくれた。
「照明を消したいの? やろうと思えば消せるみたいだよ?」
「へっ!? ゴジも知らないのに?」
「機能的に消す方法がある、ということだから、護治郎くんが知らなくてもできるけど……」
「っ!! まさか壊すの?」
ユカちゃんが悲鳴のような声を上げる。
確かに、壊したら消えるのかもしれない。
そこに気づくとは、優花子はなかなか頭が回る女だ。
「まさかぁ、壊したりしないよ。そんなことしなくても、物理系につながってない電子的なオンオフスイッチがあるから、それを操作したら切ったり点けたりできる感じだよ」
「繋がってないのに、どうやったら操作できるの? なんでそんなことを知ってるの?」
ハルカちゃんが当たり前のように説明しているところに、ユカちゃんが当然あって良い疑問を発する。
私はハルカちゃんのこういうところには、早くももう慣れたから疑問にも思わなかったけど、確かに不思議ですよね。
「あー、ほら、ハルカちゃんって宇宙から来た銀沙でできた謎生命だから」
「わたしだって地球生命だけど、だからって念力使ったりできないわよ?」
「またまたご謙遜を。ユカちゃんは大きな物を出し入れしたりできるじゃん」
特に能力者でないのは私の方で、優花子ちゃんは能力があるから防衛隊で有志隊員をしている。
「それはできるけど、地球とは関係ないし……」
「私の方としても宇宙から来た謎生命だからできると言うより、地球系由来の知性だから地球上の機械の仕組みを理解しやすいって感じなんだけど……」
ユカちゃんと私が噛み合わない話をしていると、ハルカちゃんが割り込んできた。
機械の仕組みを理解できるのはそれが理由なんだろう、多分。でもそれだと、触ってもいないのに仕組みを理解できることとか、触らないのに操作できることとかの理由にはなってない。私としては、ハルカちゃんが銀沙製っていう事が、どうやってるか知らないけど体の中で携端――つまりコンピュータ――の代わりにすることができるような能力の元になっていて、操作するのはその無線通信の機能なんじゃないかと思ってるんだよな。
どうやってるのか知らないけど、無線で操作できるって言ってるんだから、接続承認のシェイクハンド信号でも出てるんじゃないかと思う。そこまで現代の機械そのままの仕組みでなくても、ハルカちゃんは映画に出てくるハッカーができるようなことが何でもできるから、謎の技術で外部から操作できるんだろうなとなんとなく思っている。
この件では思考は放棄した。
口に出して確認はしていないんだけど、どうもハルカちゃんの口ぶりから察すると、この辺のことはできて当たり前で、目の前の相手がそれを知らないということを意識していない感じがある。こういうのを確認する時ってなんだかすごく無知になったような気がしてしまうので、気がついても確認まではしない(できない)で、知ったかぶりで通してしまうことも多い。いまもそうだ。
だから、なんでか知らないけどハルカちゃんは機械を遠くから操れる、ぐらいの認識でいる。仕組みはさっぱりわからないけど。




