……7月1日(金) 16:30
諸々が千々に降下してくる夏々の日々
第四章 大きくて小さい子・大きいけど小さい部屋
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「僕の能力だよ。知ってるだろ?」
「ああ、あの使えない機械を出す……」
「使えるよ。使えるけど、劣ったところのある機械だ。最善の能力じゃないから、普通の場合には買ったほうが性能がいいだけで。それで、僕の能力には制限があるのも知ってるよね?」
「その能力が低いってやつが制限なんじゃ……。あ、材料が必要なんだっけ?」
「材料と言うか、別に対応した物質じゃなくても良いんだけど、等しい質量が必要なんだ。あと、僕自身の体力と時間が要る」
「そうそう。知ってた。だから地下に穴開けたって聞いたときは車でも作ったのかと思って驚きもしなかったんだけど……。それで、どうやって隠したの?」
「隠し扉。いま入ってきた横穴の奥が隠し扉だったんだ。防衛隊の人も現場の確認はしたけど、すごく詳しく捜査されたわけじゃないみたいだから、僕の仕掛けでもごまかせたらしい」
「ああ、そりゃあね……」
さすがのユカちゃんもこの地下通路を見てペテンだとは思わない。まぁ、目の前にあるんだから、信じるも信じないもない話ではある。
ゴジとユカちゃんが問答している間に、窓ちゃんが到着した。
私は軽く手を振る。窓ちゃんも手を振って答えてくれる。まぁ、ユカちゃんを挟んでるだけだから距離はごく近いんだけど。
「……そんなこと、私に教えていいの?」
「だから秘密にして欲しいってお願いしたんだよ」
「そうね。……そうだ、窓はここを防衛隊に秘密にしてたんだ?」
すぐ後ろにいる窓ちゃんにユカちゃんが話しかける。
窓ちゃんは小さく首を縦に振って肯定。位置関係的に見えないだろ、と思ったけど、ユカちゃんが軽くため息をついたので、意思は伝わったみたいだった。見えてるとは思えないけど、なんで伝わったんだ……。
「じゃ、行こう」
会話が一段落したので、ゴジが向きを変えて奥に進んでゆく。
「護治郎はそのものの重さを引き換えにして、機械を出すんだよね? この通路だけでもけっこうな量になるんだけど、この先になにがあるの?」
「幹侍郎ちゃんが居るんだよ。会えばわかる」
ユカちゃんの独り言に私が口を挟む。
「でも、驚いちゃいけないんでしょ? なにがあるのか分かってた方がやりやすいんだけど……。佐々也も窓も驚かなかったの?」
「言われたことをするつもりはあるんだ……。いいやつだな、優花子」
「なんで佐々也が上から目線のちょっと気持ち悪い喋りになってんの……」
私のコメントにユカちゃんが反発する。
ユカちゃん、私の扱いがぞんざいすぎない?
まぁ、ユカちゃんは根がしっかりしてる上に優秀だからなのか、誰に対しても手厳しいけど。
「佐々也は驚いてたけど、まぁ、佐々也はなにをしてもどことなく面白いから、幹侍郎が傷ついた感じにはならなかった。深山はその辺なんか深刻な感じになりそうだからな……。まみ……、窓ちゃんはそう言えば驚いた様子はなかったね」
「その……、見られただけであんまり驚かれると悲しいって、私はよく知ってるから……」
窓ちゃん自身の変身後の姿のことだろう。
こんなことを思ってるなんて、私もはじめて知った。
私は幹侍郎ちゃんのことに驚くので忙しかったから、最初に会った時に窓ちゃんには驚いた様子がなかったっていうのは気にしてなかった。驚いていないとは思っていたけど、そんな事を考えていたとは……。私自身、これまで変身後の窓ちゃんに会ったことはなかったから、どれだけ窓ちゃんが気にしているのかを知らなかった。
知ったからには、今後は気をつけていきたい。
「……なるほど。そういうことか。幹侍郎のこと気遣ってくれて、ありがとう」
なるほどなと思っていたら、ゴジと窓ちゃんがなんかいい話をした雰囲気を出してる。
私はゴジに、要約すると「そもそも存在が滑稽」みたいな、受け取りようによっては酷い意味になることをさらっと言われたんだけど?
まぁね、とはいえね。
私はお姉ちゃんだし、ゴジとしても悪意ではないみたいだから、ここは見逃しておこうかな。




