7月1日(金) 16:25
諸々が千々に降下してくる夏々の日々
第四章 大きくて小さい子・大きいけど小さい部屋
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7月1日(金)
16:25
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「じゃあもう仕方ないから、会いに行こう」
「会いに行く? 誰に?」
口で説明しても埒が明かないので、ゴジがしびれを切らした形だ。
ゴジとしては幹侍郎ちゃんの話が本命だけど、ユカちゃんはその前置きの話で延々躓いている感じだからだ。
とはいえ、こう言ってはなんだけど、ハルカちゃんの話は内容的には口頭でいくら説明されても普通なら納得できないぐらいぶっ飛んだ話だと思う。でも残念ながら、現実が荒唐無稽なんだからしかたない。
「実は、その前に深山にはひとつお願いがあるんだ」
「お願いがある? 秘密にしろっていうやつ? そこがまず胡散臭いのよ」
「うん。もちろん秘密にもしてほしいんだけど、そうじゃなくて、なにを見てもあんまり驚きすぎないようにしてほしいんだよ」
「驚きすぎないって、なにを見るのかも知らないのに、そんな約束できないけど?」
ごもっともである。
ただ私にはゴジがなんでそんなことをお願いしているかも分かる。
「あ、ごめん。驚くなって意味じゃないんだ。内心驚くのは仕方ないけど、驚いてる様子をあんまり大っぴらに見せないでほしいって事なんだ」
「……どういうこと?」
「その、これから会ってもらうのが、まだ幼い子なんだよ……。でも、見た目とかにちょっと驚くようなことがあると思うけど、あんまり驚いてみせると可哀想だからさ……」
「幼いって、何歳ぐらいなの?」
「十歳ぐらいかな? その……、精神的には」
「精神的に? 肉体的には違うっていうこと?」
「……違うね」
「何歳ぐらいに見えるの?」
「わからない。……なんというか、あんまりそういう感じじゃないと思う」
「意味わかんないわね」
ごもっともパートツー。
だがしかし、ゴジの言葉に嘘はないということを私は知っている。でもここはゴジがユカちゃんからの信用を稼ぐターンなので、表向きユカちゃんからの信用の無い私が口を挟むべきではない。仕方ないので、黙って見ているしかない。
「そうだね、僕もそう思う。細かい話を説明しても深山は信じないと思うよ。だから、あんまり細かい説明なしで見てもらうのが一番だと思ったんだ」
「それなのに驚くなって?」
「僕の弟はまだちょっと幼いから、あんまり驚かれてしまうと、自分がおかしいんじゃないのかって悲しい気持ちになるかもしれない。そうなってもらいたくないんだよ」
「弟? あんた弟なんて居なかったじゃない。しかも十歳って、十年前から隠してたの? 弟を?」
「……そういうんじゃない。そこは経緯があるんだけど、いま言っても信じないよ」
「いま信じないものを会ってみたからって信じるように変わるなんてことないと思うけどねぇ。だいたい弟って、あんたのご両し……」
これは危険球。やむを得ず口を挟む。
「いちおう言っておくと、弟さんの顔が誰かに似てるとかそういう話じゃないよ?」
「似てないのに、会ってみれば弟だって分かるってこと?」
「それはどうだろう? うーん。……そういう話じゃないって事が分かる感じかなぁ」
「はあ? じゃあどういう話なのよ? まさか佐々也、あんたまた妖怪だとか宇宙人だとか言い出すんじゃないでしょうね?」
「宇宙人ならハルカちゃんの方が近いかな。まぁでも、似たような感じかもね」
「天宮さんが宇宙人? さっきの話なら、宇宙人ではなくて、旧太陽系の新人類でしょ」
お? まったく信じてないとは言ってたけど、話の要点はしっかり理解しているのか。
とは思ったけど、そのまま口に出すと茶化したことになってしまうので、それには触れない。
「その辺は言葉の綾ってことで」
「まったく、あんたはほんとに適当なんだから」
お母さんかよ!
なんなんだよ優花子は!! 何歳だお前!!!
って、いまは口喧嘩をしてる場合じゃないから言わないけど。




