7月1日(金) 15:55
諸々が千々に降下してくる夏々の日々
第四章 大きくて小さい子・大きいけど小さい部屋
━━━━━━━━━━
7月1日(金)
15:55
━━━━━━━━━━
ひとまずハルカちゃんと連れ立って一階に降りて食堂に入った。
そこからユカちゃん向けのハルカちゃんの身の上説明会が始まった。何故か講師が私で司会がゴジ、当のハルカちゃんがゲスト枠という構成になった。
なぜだ。
いや、分かるけど。
ハルカちゃんはユカちゃんに信用がなく、ゴジは後で別の説明会の講師、窓ちゃんは説明には不向きだからね。
それで私がハルカちゃんの身の上をユカちゃんに説明して、ところどころハルカちゃんに補足してもらう感じで進行するんだけど、ユカちゃんはこれを全然信じない。講師の私が言っても信じないし、ゲストのハルカちゃんが受けあっても信じないし、司会のゴジが言っても信じないし、窓ちゃんが横から言い添えても信じない。窓ちゃんは最近、私達と仲良くしてるから共謀して作り話で引っ掛けようとしているとまで疑われてしまった。
私が主犯で。
ユカちゃんは私をなんだと思っているのか……。
いや、小学生の頃、窓ちゃんと遊んでいるときに座敷わらしと一緒に遊んだとかそういうくだらない引っ掛けをたびたびやっていた、そういう心当たりはある。低学年の頃のユカちゃんは素直だったので、そんな作り話にころころ引っかかってたから面白がってよくやっていたけど、高学年ぐらいから全然引っかからなくなってしまったので、それ以降はあんまりやってないはずだ。
……身から出た錆だったかぁ。
仕方がないのでゲストのハルカちゃんには生えてきた指をまた切り落として貰って、ユカちゃんにもそれを見てもらうことにした。
ところが、それでも手品だと言って信じない。
ユカちゃんが言うには、断面にリアリティが無いそうだ。
そう来るのか……。
確かに断面にはこれいという内部構造がなくて、見た目に作り物っぽい。私もフィギュアの欠片として売ろうと思ったもんな。言うなれば、偽物っぽいからあの発想だったんだろうね。ユカちゃんに疑われて自分でもやっと気がついたわ。さすが優花子。
発想が穿っている。私には無い。
窓ちゃんが「雨宮さんはTOXにお腹を突き刺されて貫通したけど平気だった」と言っても信じない。「よかったら刺してみる?」とハルカちゃんが聞いたけど、ユカちゃんは嫌がって刺さなかったし、やっぱり信じない。代わりに私が刺そうかと提案してみても「手品だとしたら刺す側が誰でも疑いは同じでしょ」といって断ってきた。冷静で筋が通っている。まぁ、人を刺してまで確かめたくない気持ちはわかる。だったら信じればいいようなものの、そこは信じないというあたりも流石だ、優花子よ。
じゃあというので角度を変えて、ハルカちゃんの制服は服じゃなくて体の表面だから、いっつも同じ制服で固定なんだよって言っても信じない。
体の仕組みが人間と違うからケーキ食べないんだよって説明しても信じない。
しかもその上で、食べようと思えば食べれるよと言って、ハルカちゃんがユカちゃんのお土産のケーキを食べてみせるというコントまで発生した。
味の感想を聞いたら、甘くて美味しいそうだ。
食べられるだけじゃなくて味までわかるのか……。
高性能だな……。ハルカちゃんも流石だよ……。
説明会という目的で三〇分以上もこんな話をして、これはもうハルカちゃんの話は単独で信じてもらうのは無理だということになった。ハルカちゃんは見た目が普通だし、正直なところ、信じられないという言い分はよくわかる。
ユカちゃんにしてみたら、怪しい話を友達がみんな信じているなら、自分がカウンターバランスにならなきゃいけないと思っているのかもしれない。友達を信じていないようでいて、それがユカちゃんの友だち甲斐なわけだ。
優花子は損な性格だなぁ。




