……7月1日(金) 15:45
諸々が千々に降下してくる夏々の日々
第四章 大きくて小さい子・大きいけど小さい部屋
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「ただ遮断すると怪しいから、ハイキングコースの方に登っていく欺瞞情報を作って流してるんだけど、一応それを知らせておこうかなと……」
えぇ……。やっぱりか……。
「……突っ込みどころが多すぎるよ。まず、そんなことできるの?」
私は今、完全にドン引きしています。
「ほら、長く離れていても人類同士だから、技術の基本的な部分はかなり似通ってるみたいな所があるというか、ここは私が来た文明からみたらかなり原始的な世界だから、こう、その手の細工は割と簡単というか」
そうか……、原始的か……。
たしかに単純な経過時間だけでも五千年分の差がある。その上、我々の文明は後退してるから、もっと差が開いてるってことだな。五千年といえばついさっき思い出してた窓ちゃんの家柄よりもっと古い時代に当たるわけだ。
なるほど。釈然としないけど、言いたいことは理解できる。
「遮断するにしても、道具とかどうしてるの?」
「それは私の体で代用してると言うか、体の中に内蔵していると言うか……」
不思議生物かよ!
……不思議生物だったわ。
そういえば最初は生身で携端のダイレクトメッセに割り込んできたりしてたもんな……。
「だいたい、防衛隊の情報を撹乱するにしても、ユカちゃんだけなら意味ないんじゃないの? 窓ちゃんだっておんなじ物を持ってるはずだよ」
「真宮さん? 真宮さんは初回に乱入してきたときに電波遮断してたんだけど、その後に事情を話したら電源切ってきてくれるようになったから」
「窓ちゃんに話したの!?」
「話したけど……。あの、もしかして佐々也ちゃん、怒ってる?」
別に怒ってはいない。
どちらかというと驚いている。
予想外なのはむしろ想定内なのに、なんで私は驚いているのか……。
「怒っては居ないよ。でも……たぶん違法だね」
予想外の方向性が予想外だったわけです。
不思議生物と友達をしてると、違法行為についての責任みたいなものを感じる場合もあるのか。考えてみたこともなかった。
「ああ、なるほど。でもそれを言うなら、私がここに居るのも学校に通ってるのも特に合法ではないはず。税関通ってないし、学校も文書偽造とかになるんじゃないかな……」
「うっ。言われてみれば……」
「そもそも、私はたぶん法的には人間じゃないから、あんまり気にしても仕方ないと思うよ。それに人間じゃないなら、厳密には違法でもないかもしれないし」
そうなの?
違法ではなくても脱法では? 見過ごす私の方は人間だけど、法的に大丈夫?
例えば暴走する列車の運転席に居て、どれがブレーキなのか分かる状態で十分に考える時間があるにも関わらずブレーキを掛けずにいて線路上の人を見殺しにした場合、私には責任がないのかどうか。
法律上どうなのかはともかく、私の感覚では道義的な責任はあるように思えるぞ。
まぁでも、これは人が死ぬという特例的に道義的責任が発生しやすい例示だからであって、単純な規則違反に対する道義的責任、例えば列車の速度違反とかにまで道義的責任を問われるかと言われると、確かにそこは微妙かもしれない。わからん。
「……うん。考えても分からなかった。とりあえず税関とか学校については、それほど私の良心は痛まないから見逃すよ。電波はね……、影響がわからないから結局わからん。ユカちゃんがどれぐらい困るかなんだと思う」
「私の秘密も、漏れたら困るのよ。それに私だけじゃなくて、幹侍郎くんのことも……」
「あーそうね。幹侍郎ちゃんのことが漏れるのは困るね……。まぁユカちゃんには言うから、ユカちゃん自身に秘密を守ってもらうしかなくなる感じだけど?」
なにを言いたいんだろうか。
秘密を打ち明けるというのはそういうことではないだろうか。
「そういうんじゃなくて、その、深山さんに電波のことを伝えないといけないけど、私から言っても角が立つだろうし……」
「ああ! そういうことか、なるほどね」
そりゃそうだ。ユカちゃんには秘密にするけど、基地署には漏れないようにするための手を打った。電波妨害はそういうことだ。その上で、勝手にやった対策を本人に伝えないとそれはそれで事件になるから、共犯に巻き込めということだ。
「私が言うと窓ちゃんとかゴジにも伝わるよ?」
「そこは一蓮托生だから伝わっても大丈夫」
そりゃそうですな。
「じゃあ、電波のことはタイミングを見て私が言うから、一緒に下りよう」
「うん」
私が背を向けると、ハルカちゃんがついてくる気配があった。
美少女を連れて歩くのは気分が良いような気もする。するけど、この美少女、美少女に見えるだけで得体が知れなさすぎるな……。




