……7月1日(金) 15:40
諸々が千々に降下してくる夏々の日々
第四章 大きくて小さい子・大きいけど小さい部屋
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今日はユカちゃんも来ると思うと、待っているのもなんだか楽しい。
今日は窓ちゃんとユカちゃんが一緒に来るってことで、その頃の気持ちが急に蘇ってきた。もちろん、その頃に集まったのはゴジの家ではなかったし、そういう時にになにをして遊んだのかはぱっとは具体的に思い出せないけど、とにかく一緒に遊んで楽しかった思い出はある。
その楽しかった気分だけがタイムスリップしてきたみたいに、今ここで妙に鮮明に感じている。
そしてその気分のままでぼんやり待っていたら、視線の先に出てきたのは高校生のゴジと高校生の窓ちゃんと高校生のユカちゃんで、なんとなく不意を突かれてしまった。
もちろん、現れたのが高校生のみんななのは当たり前だ。変な錯覚をしている自分の方が明らかにおかしい。
そもそも、私だって高校生だ。ちょっと一瞬、気分が昔に飛んでただけだ。
「深山がケーキ買ってきたって」
ゴジはそのまま厨房に、お皿なんかを用意しに行った。
「ユカちゃんも、もうすっかりお姉さんになったねぇ」
「は? なに言ってんの、あんただって同い年でしょ!」
ユカちゃんの服は、なんかふわっとしたいい感じの五分袖の白いシャツと、シュッとした感じのベージュの七分丈のパンツで、子供の頃とは違うなんだか垢抜けた感じの服装だ。髪の毛も昔は短かったんだけど、高校に入る前ぐらいからは肩ぐらいの長さでゆるくウェーブをかけた髪型になっていて、いっそうお姉さんぽい。
窓ちゃんは胸のあたりに切り替えの入ったワンピースで、ストレートの長い髪もあってすごく女の子っぽい。この子は子供の頃からワンピースが好きだったし、髪型もあんまり変わらないから、なんとなく見慣れた格好のような気もする。
「あーごめん。窓ちゃんとユカちゃんが遊びに来るのを待ってたら、子供の頃の気持ちになってた」
「そんな何年も昔のことじゃないでしょ」
「んー、五年ぐらい?」
私とユカちゃんが話していると、窓ちゃんはニコニコしている。
ユカちゃんがケーキの箱を会議室のテーブルに置く。
「ま、座りなよ」
「ここで話すの? ここって食堂なんじゃないの?」
「食堂と言うかいまでは会議室なんだよ。それでリビングはゴジの私室になってるから、まぁここだね」
「私室って……。この家がそもそも護治郎の私邸なんだから、全部私室みたいなもんだと思うけどねぇ」
「いまは私達も住んでるから、ゴジにも私室があるんだよ」
「リビングから出られるこの家のサンルームが好きだから、あそこでケーキ食べたかったんだけどなぁ……」
「サンルームはここからも行けるけど、ガラス窓が危ないっていうんで去年の台風のときからシャッター閉めっぱなしだよ。仮にシャッターを開けたとしても、庭の手入れをしてないからひどい景色のはずだし」
「そうかぁ……。どのみち無理な希望だったか……」
私とユカちゃんが他愛のない話をしている間に、窓ちゃんは厨房に行ってお皿を運ぶのを手伝うことにしたみたいだった。
窓ちゃんはかちゃかちゃ言わせながらお皿を五枚とコップを五個、ゴジは大きな透明ボトルの紅茶とフォークを五本束ねて手に持って、なんだか複雑そうな表情をしながら窓ちゃんの後をついて出てきた。
「そういえば、天宮は?」
食堂の顔ぶれを見て、ゴジが聞いてきた。
「まだ来てないね。呼びに行ってくる」
「天宮が来ないなんてめずらしいな……」
「『あまみや』はまだだけど『まみや』の方が来たから、あと一文字だけ連れてくれば良いね」
適当なダジャレを言いながら、私は席を立つ。
まぁ二階の本人の部屋にいるのだと思う。
あの来歴を聞いたら無理のない話だとも思うけど、ハルカちゃんは色々と好奇心の強い性格で、人が話しているとひょっこり顔を出すようなことが多い。ゴジが言ってたとおり、人が集まってるのに顔を出さないだけで珍しい気がするぐらいだ。
最初の話だと誰も居ないところに行く予定だったみたいな話だったけど、あの人懐っこい性格でそんなことをしても心の健康とかは大丈夫だったんだろうか、という変な心配が思い浮かんでしまう。