7月1日(金) 15:40
諸々が千々に降下してくる夏々の日々
第四章 大きくて小さい子・大きいけど小さい部屋
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7月1日(金)
15:40
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ユカちゃんと一緒に到着するよ、という意味のスタンプのダイレクトメッセが窓ちゃんの個人端末から届いた。
私はメッセージを受けて一階の会議室――元は食堂、というかいまも食堂なんだけど私がなんとなく会議室と呼んでいる部屋――に移動した。ゴジは元のリビングをもっぱら居場所にしていて、いまやあの部屋はリビングというよりゴジの寝室的なプライベート空間ということになっている。
あのリビングは好きだったから、入れなくなったのはなんだか悲しい。
悲しいけど、まぁ仕方ない。
私が入りたくても入れない場所なんて、ゴジの家のリビングに限らず世の中にいくらでもある。例えば見知らぬ人の家の中とか、コンビニのバックヤードとか、市立図書館の事務室とか。
ゴジは知ってる人だけど、プライバシーならば仕方ない。プライバシーはたぶんけっこう大切だ。もし仮にそんなには大切じゃないとしても、私とゴジの間でゴジのプライバシーをどれぐらい大切にしてほしいかを決めるのはゴジだし、必要があるまでどれぐらい踏み込んでも怒らないかを試さないことで、お互いの信頼関係が育まれるのだと思う。
信頼関係というのは不断の努力で築かれていくのだなぁ。
これもまた人間関係だ。私はそういうの苦手な方だけど、私だけじゃなくて相手も人間だから、私が人間関係が苦手だからっていってもやらなくて良くなるわけではないんだよな。それが不断っていうことの意味であい、ありおりはべりいまそかり……。
会議室に移動しながら、横目でリビング方面へ続くドアを見つつそんなことを考えていた。これぐらいのことなら考えなくても一緒なんだけど、アホな連想ほど止められない。
到着してみると、部屋に来たのはまだ私だけ。
耳を澄まして物音から感じ取れるのは、ゴジはどうやら玄関に迎えに行った様子で、ハルカちゃんは……。なにしてるんだろう? いや静かに歩いてるだけかもしれないけど。
でも来ないようなら、呼びに行くべきか。
……まぁいいか。
結局そのまま待つことにした。
少しして、呼び鈴が鳴った。
窓ちゃんは律儀に毎日呼び鈴を鳴らすのだ。
そうそういつでも向かえに出られるわけでもないかもしれないし、廊下とか会議室は公共の場所みたいなもんだし、各人の部屋に入らなければ呼び鈴を鳴らさないで家に入っても良いんだよと窓ちゃんに昨日伝えたら、それは抵抗があると言っていた。
まぁ、分からなくもない。ゴジの家でなければ私だって勝手に入るのには抵抗がある。
くぐもってなにを言っているのかまではわからなかったけど、玄関の方でゴジが二人を迎え入れている声がする。
昨日は私も一緒に出迎えたんだけど今日はやめておいた。特に今日はユカちゃんも居るし、いかにも同居人然として迎え入れる側にまわるのも、なんとなく気が引ける。たぶん窓ちゃんはゴジに迎えられて嬉しそうにしているのだろう。私がその場に居たとしても特に嫌がられるということはないけど、私の気持ちの上でどことなく居心地が悪いのも事実だ。
別に玄関で会わなくても、ここで待っていれば窓ちゃんには会えるわけだし。
今日はユカちゃんも来ると思うと、待っているのもなんだか楽しい。
四人しか居ない集落の同年代の女の子の中では、私と窓ちゃんがおっとり同士でよく気が合うことになっているし、ユカちゃんはぞっちゃんとおしゃれさん同士で気が合うことになっている。実際、私と窓ちゃんは気が合うし、ユカちゃんとぞっちゃんも話が合うらしい。でも別に私とユカちゃんやぞっちゃんの間柄が良くないわけじゃないし、窓ちゃんとユカちゃんは一番の仲良しだし、ぞっちゃんは分け隔てなくみんなのアイドルなので誰とも仲良し――つまり私とだって仲良しだ。
ついでに言えば窓ちゃんもおしゃれさんだ。……私は違うけど。
でも、私としても窓ちゃんとは気が合うというか、おしゃべりしてなくても一緒に居るだけでなんとなく楽しいみたいなところがあって、小さい頃にもよく行き来して遊んだ。その頃にも、時々は窓ちゃんがユカちゃんを連れてくることがあった。




