……6月28日(火)TOX襲撃、四日後: 深山優花子
諸々が千々に降下してくる夏々の日々
第三章 降下してくる危機が近づいてくる日々
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しかも、どうやら窓はあれをきっかけにして護治郎に惚れたらしい。
あれ以来、口を開くと護治郎の話を聞かされる感じだ。同じクラスだからわざわざ窓に教えてもらわなくても、大抵のことは私も見て知っているんだけど。
窓の様子を見ていると、どうやら護治郎のことを「優しい」と思っている様子があるんだけど、これがよく分からない。どちらかと言えば護治郎はなにごとも不器用なところがあって、自分のことに手一杯になりがちで、他人のことに目が向かないタイプに見える。村には同じ年頃の男子は二人しか居ないけど、どちらかといえば魁の方が優しいって言われるタイプだと思うし、気も利く。
とはいえ、護治郎が好きなのかどうか、あえて窓に聞いて確認したりはしていない。
明らかに見え見えなんだけど、言わずに居るのだから、言い出しにくいんだろう。
護治郎といえば佐々也も居るし。
現状、佐々也と護治郎が恋人同士なのか、好きあっているのか、と言われたらそんなことなさそうに見えるのは確かなんだけど、子供の頃から家族ぐるみの付き合いがあって特に仲の良い二人であるのは間違いない。頭脳はかなり賢いながら明らかにうすぼんやりの佐々也の面倒を護治郎は昔からよく見ているし、ご両親を亡くした護治郎が困っている時、なにくれとなく手を差し伸べているのはやはり佐々也だ。
この二人の間には特別なつながりがあると言ってよい。
そして窓は、このタイプの人情噺に弱い。きっと、横恋慕して奪ったというような気持ちになってしまうだろうと思う。私が見るところ、護治郎はおそらく佐々也のことをまぁまぁ好きだろうけど、年頃の少年が身近な親類の女性に対して感じる程度の好意に見えるし、佐々也の方は……護治郎に対して好意があるのは間違いなさそうだけど、そもそもあの子に人並みらしい恋愛感情が存在するのかどうか……。
悪い意味でなく佐々也は独特な人間なので、何事も予想がつかない。そもそもの情緒行動として、人間に向ける感情とカブトムシに向ける感情の間で差があるのかどうかもよく分からないぐらいだ。
決して悪い人間でもなければ無感情ということもないのだけど、傍目には突飛な人間に見えるし、なにを考えているかいつだってよく分からない。予想がつかないだけで、情緒行動そのものは存在するというか泣きも笑いも普通にするんだけど、話を聞いてみると共感しにくかったりするんだよなぁ。
更に言うと、佐々也はかなり賢い子なので、自分の情緒が理解されにくいということを自分自身で理解している。そのせいで、その辺を調整してくるのだ。生の感覚でなくなるので余計に佐々也自身の情緒が理解りづらい。というか偽の感情表現に見えてしまい、佐々也自身の情緒が存在しないかのように見えてしまったりする。
とはいえ、得体がしれないとは思っているけど、私としても佐々也を嫌っているわけではない。それどころか、六人きりの幼馴染として非常に愛着があるし、ドジだからフォローしてあげたいとは思っている。
当の窓は佐々也のことは昔からかなり好きだ。どちらかといえば引っ込み思案なぐらいの性格なのだけど、佐々也に対してはどんどん構って行きたがる。
窓から見ると、佐々也は面白いらしい。
窓という子はどうにも他人の考えに頓着しないというか、他人の内面を推し量るのが苦手というか、物事を考えるのがあまり好きでないところがあって、それなら確かに佐々也は面白いだろうと思う。窓は自分では自分のそういうところを頭が悪いと呼んでいるけど、窓はおそらく頭が悪いわけではない。確かに学校の勉強はできないんだけど、頭が回らないということではないのだし。おそらく思考と出来事の関連付けがあまり上手くない、というか、思考とか感情とか記憶とかの頭の中にある事柄と、目の前の出来事を頭の中の事柄に翻訳して置き直して、それを全部絡めてもう一個次の段階に進むのが苦手なんだと思う。
考えが逸れてしまった。
とにかく、そんなわけで、狭い集落で同級生同士の人間関係をやっているおかげで、十年一日まったく変わらないかと思っていた人間関係に新たな展開が来たことになる。これまでの関係も安定していて良かったと思うけど、時には変化もいいだろう。