……6月24日(金)21:01 TOX襲撃、一分後:叡一
諸々が千々に降下してくる夏々の日々
第三章 降下してくる危機が近づいてくる日々
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ダイソン球の中心にある新太陽を取り巻く陽炎、叡一はそれがなぜ見えるのかを知らないが、その陽炎は高い温度を意味するのであるのだろうと理解している。それと同じように、叡一はコンプレキシティがなにかを知らないが、おおまかにそうしたものだと理解している。
そして、TOXの襲撃場所はコンプレキシティになんらかのやりかたで関連している、栄一はそう確信している。
間近にあるはずの高階者コンプレキシティ痕跡の付近――つまりはTOXの落下位置――と周囲のコンプレキシティ濃度を確認するため、自身の重力中心から重力の浅い方に向けて人間の身体を移動させる。強い重力の影響で自身の重力中心をそちらに移動させることは困難だが、人間身体のような軽い部分を第四軸の裏側から肢の及ぶ範囲で押し上げるのは簡単だ。
これが魁に言った空を飛ぶというやつの仕組みだ。自分自身は深い重力の底に寝転んだまま、肢の範囲で人間体を動かすだけ。届く範囲で用事をしているだけのことだから容易だ。
人間体を浅い方に押し上げ、人間体の目を凝らしてTOXが纏っているコンプレキシティの痕跡を確認する。どうやら三体のTOXは集落の裏の山を囲むように落下したらしいというがわかった。
TOX自身には知性は無いが、TOXには知性の痕跡が付着している。知性の無いTOXにコンプレキシティが付着しているその痕跡こそが、高階者が存在することの証拠であると思うし、その知性の主こそがまさに高階者であるはずだ。
今回のTOXが衝突したのはすべて山だ。山の中に高階者を惹き付ける何かがあるのだろうか。
人間体で浅い方から底の方を見下ろす。なにしろ第四軸上で基礎空間に出ているのが人間体だけなのだから、基礎空間で受感する手段が人間体しかない。人間体の視覚でTOXが落下した位置を見定めて記憶する。
一段落したら見に行こう。なにかヒントが有るのかもしれない。
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叡一は人間のことが割と好きだ。
平らな地上を一生懸命に動き回っていて可愛いと感じる。
秘密の使命がどのように露見するかわからないから自分の真意を告げる事はしないでおくが、知性作用も無いようなTOXに無闇に殺されるのは可愛そうだろうと思う。
今朝、魁と共に行った学校の合同校舎に防衛隊が集まっているのを見かけて近寄っていく。
空を飛んでいたら見咎められ銃を向けられたが、学校のリモプレで会った、名前はなんと言ったっけ……。そうだ、深山さん。深山さんが僕をイルカだと言ってとりなしてくれた。
「叡一くん、だよね? どうしたの? TOXが出ていて危ないから避難しなさい」
僕に注意を促しながらも、深山さんはなにか憔悴しているようだった。
「深山さんはなにか困りごと? 顔色が悪いよ?」
僕の言葉に深山さんはビクッと身体を緊張させる。
彼女の知性の痕跡がぐるぐると渦巻き、彼女自身に戻る。
コンプレキシティを視覚で見たところで彼女が何を考えているかはわからない。知性が動作した時の輻射熱みたいなものだから、知性が動作している事、つまりはなにかを考えているという事と、目視の範囲の何と関係しているのかしか分からない。近くにいる人や物について考えているわけではないらしい、ということだけがわかる。基礎空間の直接関係を越えてどこかに繋がっているようではあるけど、それがどこなのかはこの場でコンプレキシティを見ていてもわからない。
「ええ、まぁ、TOXとの戦闘のことでね。三体ともどこに居るか見つからなくて……」




