……6月24日(金)21:20 真宮窓
諸々が千々に降下してくる夏々の日々
第三章 降下してくる危機が近づいてくる日々
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ルークの上半身部分が割れて、二つに千切れている。
他の部分ももう動かない。
倒し終わっているようだ。
「それ、もう死んでる?」
「わ……わからない」
佐々也ちゃんが聞いてくる。でも、死んでるかどうか私には分からない。
実はTOXが死んだかどうか、自分で判断したことはない。これまでに経験した数少ない実戦では、倒したかどうかの判断は専任の人がしてくれている。倒すまでは動かなくなれば勝ちだとは思っていれば差し当たり用が足りる。
ルークがもう動かないのは本当のようだ。まだ気は抜けないとはいえ、とりあえず膝下に敷き込むのをやめ、私自身は立ち上がる。
「いつもは、その……、防衛隊の人が見てくれるから……」
……そうだ。防衛隊。
基地署との通信を忘れていた。ずっと繋いでるはずだから、隊の人が聞いてたはず。
一人で動いたり、勝手に戦ったり、途中の報告を忘れていたり、民家に入り込んだり、隊の規則としてはやっちゃいけないことをたくさんしていた気がする。いつになく気が立っていたとはいえ、我ながらあんまりだ。
怒られる、と咄嗟に思ったけど、考えてみればここまで通信が一切聞こえてこないのはおかしな話だ。いまも、声が聞こえてこない。ドジをして、スイッチ入れ忘れたのかもしれない。
「もう動いてないから、害はないんじゃないかなぁ」
任務用の携端を取り出して確認しようとしたところ、ルークを取り上げて触っている人影が視界の下に映り込んできた。
女の子だ。
佐々也ちゃん?
「……え?」
連続して事が起きるから、いっぱいいっぱいになって出来事についていけない。
携端の電源が入っているのだけを確認して人影に目を向けると、佐々也ちゃんではなかった。
天宮さんだった。
天宮さん。さっき、刺されたはずでは?
「え?」
振り返って、天宮さんを投げ飛ばした辺りを確認しても、たしかに天宮さんはそこには居ない。
TOXを触っている天宮さんを見ると、刺された辺りの服には穴が空いている。中の胴体がどうなっているのかは、服に隠れて見えない。
「あ! あ……まみやさ……!」
パニック。
もうなにも分からない。
電源が入っているにも関わらず、基地署との連絡もついていない。
この場を離れると、ルークがまた動くかもしれず、見張りを止めるわけにもいかない。
どうすればいいか分からない。いつも頼りの優花子も居ない。
もう泣きそうだ。
「TOXって、こんななんだ」
これまで遠くに居た佐々也ちゃんまでもが、TOXの残骸に視線を向けながら近づいてくる。護治郎くんはさらに遠くの後ろから佐々也ちゃんを見て唖然としている。
「あ、あぶないから、こ、来ないほうが……」
必死に声をかけようとするけど、佐々也ちゃんには聞こえていないらしい。私の声が小さかったのか、佐々也ちゃんがあんまり聞いてなかったのか。
佐々也ちゃんは私より全然頭がいいけど、どこかぼんやりというか、注意が向くとまっしぐらになってしまうようなところがある子だから、どっちかわからない。手を出して止めようとしたけど、動き始めて自分の肉体の熱量に当てられて思い出した。
変身している今の私が佐々也ちゃんに触るほうが危ないかも。
携端。
基地局に連絡できないか。
優花子に力を借りたい。
「佐々也! 佐々也! 近づくなってさ!」
私の声掛けを聞いたのか、さっきまで遠くに居た護治郎くんが佐々也ちゃんに駆け寄って、肩を掴んで引き止めてくれた。
「佐々也ちゃん。危ないから、ね?」
「あ、うん。そうか。そうだね。あれ、……優花子ちゃんは?」
「優花子はあとから来るよ。それより、天宮さんもここから下がってもらえる?」
「え? 私? ……あなたは?」
話が自分に向けられるとは思ってなかったらしく、天宮さんが驚いたような声を出す。
「天宮。あとで説明するから、いまはこっちに来てもらえるか?」
「……わかったわ」
天宮さんはそう言って、二人の方に歩いて行ってくれた。
私のお願いを護治郎くんが後押ししてくれて、状況が整理されてゆく。
こんな姿で怖いだろうに、優しい。