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諸々が千々に降下してくる夏々の日々  作者: triskaidecagon
第三章 降下してくる危機が近づいてくる日々
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……6月24日(金)21:20 真宮窓

諸々が千々に降下してくる夏々の日々

 第三章 降下してくる危機が近づいてくる日々


――――――――――― ――――――――――― ―――――――――――

「佐々也! 天宮! 避けろ! その虎は窓ちゃんだから安全だ!」

 佐々也ちゃんの悲鳴が聞こえたのだろう、護治郎くんが二人に声をかけてくれる。

 天宮さんは呼びかけに構わず、破壊された部屋の入り口に無造作に近づいてゆく。

 そこはルークが居る部屋だ。危険すぎる。掴んで引き剥がしたい。

 制止の声をあげようとするが、焦りのためなのか、意味のない咆吼になってしまう。

 天宮さんは私の叫び声に構わずに部屋を覗き込んだ。

 距離は短い。走り寄って抱きとめて逃せば良いだろうか。

 考えがまとまる前に駆け出す。

 猫科の跳躍力で道中の八割を最初の一歩で詰め寄り、勢いを殺しながらあと二歩で手が届く。

 銃を持った右手の反対、左手を伸ばして腰の高さで天宮さんを掬い上げようとした時、ルークから伸びた棘が私の手を掠めて、天宮さんの脇腹を前から後ろに貫通していった。

 憤激の唸り声を上げながら、腰にかけた手を引いて天宮さんを棘から引き抜き、後ろに投げ飛ばす。

 怒りで気が立ってしまい、優しい扱いができない。

 屋内だから、強く叩きつけなければ人体へのダメージはほどほどのはずだ。

 天宮さんがどうなったのかを見届けず、バトルライフルを構え直し、三点射を残り八回、近接射撃で全弾をルークに叩き込みながら肉迫してゆく。そのままの流れで発射熱で熱くなった銃身を使ってルークを殴りつけた。しかし所詮ライフルなので、上手く殴れず銃を壊しただけだった。

 火薬の匂いがするくず鉄を投げ捨てて、装備していた警棒へ持ち変える。

「よくも! クラスメイトを!」

 怒りで目の前が赤く染まり、手に持った棒で目の前の敵を一回でも多く殴ることしか考えられない。

「あたしの目の前で!」

 変身後の膂力に合わせた自分専用の強力な警棒を、繰り返しルークに突き込んでゆく。

 ルークが倒れたので馬乗りになり、逆手に持ち替えた警棒を両手で繰り返し振り下ろす。

 激発した感情で視界が塗りつぶされて、見えているものの意味がどんどんわからなくなってゆく。

 ただひたすら、怒りに任せて、その視界の中でも敵だとわかっているルークに警棒を突き込み続ける。

「……真宮? それ、もううご……いよ」

 男の子の声が聞こえる。

 なにを言っているのか、意味が聞き取れない。

 興奮して悪い頭が更に悪くなっている。

 でも、知り合ったばかりのクラスメイトを殺されたのだ!

 天宮さんの体は棘に貫通されていた!

 声をかけてくる男の子は護治郎くんだろうか。すぐにでも逃げてほしい。

 TOXの近くは危険だから。


「ねぇゴジ、TOXのことわからないなら、口を挟まないほうが良いんじゃない?」

「あんなに怒って、可愛そうで見てられないんだよ……。あんな子じゃないのに……。ねぇ窓ちゃん? それ、もう倒したんじゃないかな?」

 護治郎くんと佐々也ちゃんの会話が聞こえてくる。

 言葉はわかるけど、意味が受け取れない。さっきからずっとそうだ。

 声の調子から、二人の会話にはずいぶん危機感が無い感じだ。友達が死んだのに。

「ハルカちゃん。近づいたら良くないよ! もう少し待って!」

「TOXを実際に見てみたいの」

 佐々也ちゃんと護治郎くんの会話に、もうひとり加わった。

 頭に血が上っているからだろう、相変わらずどういう意味の会話なのかはわからないものの、なにやらのんきなやり取りをしている様子だ。

 自分だけが怒っているみたいで悲しくなってきた。

 警棒で膝下に組み敷いたルークを突き刺しながら、咆哮を上げる。

 怒りを鼓舞しなければ、戦い続けられない。

「……ど! 窓! 返事してくれ! 窓!」

「え!? 私のこと呼んだ?」

 いつも紳士的な感じの護治郎くんに呼び捨てにされて、びっくりしてしまった。

 なんで呼び捨てにしたんだろう。

 視線を後ろの護治郎くんの方に向けると、すごく遠い。あんまり近づかないでくれたらしい。

 私の声を聞いたら緊張が切れたのか体の力が抜けたらしくて、護治郎くんが私の方に向けていた腕が落ちた。

「あ、窓ちゃん! TOX倒してない? 上半分、取れてるよ」

 遠くから、護治郎くんが話しかけてきた。

 TOX! そうだ! 戦ってる最中だった! 瞬間的に気を取り直して、逆手にした警棒を再度振り上げたけど、狙いを定めるまでもなくそれを下ろした。

 ルークの上半身部分が割れて、二つに千切れている。

 他の部分ももう動かない。

 倒し終わっているようだ。


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