……6月24日(金)21:20 真宮窓
諸々が千々に降下してくる夏々の日々
第三章 降下してくる危機が近づいてくる日々
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そのまま次の射撃をしようとしたところ、左側から視線を感じた。
食堂の手前に壁を外して椅子が置かれたロビー的な空間がある。視線はそこから。
正対する敵から視線を離さずにそちらを確認するため、更に二歩退がる。顔の向きを変えず横目で確認すると、護治郎くんが驚いたような目でこちらを見ていた。
そうだった! 神指邸は護治郎くんの家だ!
普段から苗字で呼ばないし、あまりにも廃墟然としているから、考えから抜けていた。
自分が馬鹿なのは知っていたけど、こんなところで馬鹿を出すなんて嫌だ。
「あ……、あの……」
「窓ちゃ……、あ、いや、真宮なのか?」
「う……うん」
「そういう風になるんだな。変身してるところ、はじめて見た」
「あ……、いや、あの、これは……」
変身している姿を知り合いに見られてしまった。
見られたくなかった。
嫌われる。
「TOX?」
「そ、そう。……そうだ! 護治郎くん、逃げて!」
注意を護治郎くんに取られてしまったため、視界の端に入っているだけになっていたルークは扉と戸口と壁を破壊し終えて部屋に入り込んでしまっていた。その状態で部屋の床になにかをしている様子だ。しかし角度の問題でなにをしているのかまでは見えない。
ルークは私から射撃されたことにも構わず、その場に留まったままなにかをしている。
「逃げろと言われても……。そこの作業部屋にTOXが居るの?」
狭いところに角度の問題があり、護治郎くんからはTOXが見えていないらしい。
「作業部屋かわからないけど、奥の部屋の床にTOXがなにかをしてる」
「え? そ、そこの床の穴に小さいのが入っていったとかはある?」
話を聞いた護治郎くんは焦っている。
入る? 小さいの? 床の穴?
「見えないからわからない……。戦わなきゃいけないから護治郎くんは逃げて」
「駄目だよ、床……。床の穴が……。その、やっぱり駄目だ。ここを離れて逃げられない……。外に居ればいい?」
「あと十分で優花子とかが来るから、それを待つようにして」
危険だから離れていてほしいけど、あんまり厳しく言いたくない。
いまのところ普通にしてくれてるけど、怖いことを言うと嫌われちゃうかもしれないし……。
護治郎くんにかまけていて、ルークへの注意が逸れてしまっていた。
顔の向きも半ば以上横向きになっている。
いま対面している護治郎くんの表情に驚きが閃く。
自分の気が逸れてしまっていることに改めて気づいた。
なにか動きがあるのか。
私は自分の迂闊さに半ば以上泣きそうになりながら、頭を回転させてルークの方へ向ける。
「佐々也!」
「あっ、ゴジ! 大きい音がしたけどなんかあった?」
信じられないことに、自分とルークの間に佐々也ちゃんと、もうひとり居た。
銀色の髪……、転校生の天宮さんだ。
なぜそこに!?
驚きはしたけど簡単なことで、姿勢を見ると横の階段から彷徨い下りてきたらしい。
天宮さんはこちらに背を向け、無造作に奥の部屋、つまりはルークの方へ近づいていく。
間に人が居る。銃が撃てない!
二人を一刻も早く保護しなければ。
わけのわからない声を上げながら、銃口を上げて二人とルークの間に割り込むように駆け出す。私の姿を見て佐々也ちゃんが怯えて悲鳴を上げている。
それはそうだ、見知らぬ獣が迫ってきたら怖いだろう。私の叫び声も虎が吠えてるような声に聞こえたのだろう。
「佐々也! 天宮! 避けろ! その虎は窓ちゃんだから安全だ!」
佐々也ちゃんの悲鳴が聞こえたのだろう、護治郎くんが二人に声をかけてくれる。
頼りになる。
私が動転してちゃんと伝えれられないのに。
悲鳴を上げていた佐々也ちゃんは、それでも護治郎くんの声が聞こえたのか頭を抱えてうずくまってくれた。
神指邸の廊下は一般住居より倍は広く、佐々也ちゃんがしゃがんだら横を通り抜けるのは難しくない。
天宮さんは呼びかけに構わず、破壊された部屋の入り口に無造作に近づいてゆく。