6月24日(金)21:20 真宮窓
諸々が千々に降下してくる夏々の日々
第三章 降下してくる危機が近づいてくる日々
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6月24日(金)
21:20
真宮窓
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忍び足で目に見えない確信を追跡し、蝶番の根本から引き剥がされた扉を押し退けて裏口をくぐる。突き当りまでの、板敷きの短い廊下。突き当りで丁字路になっている。
右手側に獲物の気配。
この先に居るはずのTOX――ルークに飛び道具は無い。遮蔽物は不要だ。
奔る気持ちに押されてライフルを構え、安全装置を解除しながら丁字路に踏み出す。体ごと銃口を気配の方に向け、向きを変えて丁字路を左に数歩退がる。
長い廊下。
他所のお宅とはいえ子供時代からの顔なじみだから、この廊下のことは知っている。
食堂と厨房の間。廊下の奥の部屋には行ったことがない。その行き止まりの入り口の扉が根本を巻き込んで捩じ取られ、一部の壁に横長の割れ目ができてしまっている。
目を疑うような原色の黄色い塊が、捩じ取った扉を不器用に戸口へと押し込みながら、自分も一緒に部屋に入って行こうとしている。その動きに合わせ、めしめしバリバリと音を立て、扉と戸口、壁が徐々に破壊されてゆく。
あの黄色、ルークだ。
やはり来たTOXはルークだった。
ほどなくルークは奥の部屋に入り込むだろう。遮蔽ができて銃が効かなくなる。
息を整えて改めてルークを睨めつける。
実際に向き合った時、TOXはカラフルで大きな積み木を組み合わせてでできたおもちゃみたいに見える。細かなディテールが無く、幾何学的な見た目をしているからだ。
いま目前にいるルークの形状は、どことなくチェスの駒を思わせる。
黄色い円柱形の本体の上端に水色のギザギザの冠が付いており、短い四本の緑色をした足が下部に均等に生えている。ルークはその足で歩いているのではなく、謎の力で三〇センチほど浮き、短い足は方向を決めて蹴り出すこととブレーキを掛けるときに使う。
ルークへの攻撃を始める前、窓は周囲を軽く見回す。
奥が侵入中の部屋、左が食堂、右が厨房。
厨房の手前はいま通ってきた廊下。その廊下に沿って下りてくる階段。
視界内に人は居ない。
咄嗟に有効打を狙えるほど射撃が上手くないため三点射、一度の引き金で初撃の空砲を三発排出し、もう一度引き金を引いて実弾三発をルークに撃ち込んだ。
三発ひと続きになった轟音が二度、神指邸の屋内に響く。
敵は材質的にはすごく硬いプラスチックの塊みたいなものなので、打撃の有効性は正直なところ不明だ。TOXは機械的な意味での『仕組み』がどうなっているのかほとんど分からず、ルークには内部構造らしきものも無い。加えて個体毎の特徴がユニークというわけではなく、むしろ同型のものは全てがほとんど同じだ。大量生産品なのだろうと言われている。
ミシミシっというような、異様な音を上げて弾丸がルークにぶつかり、埋め込まれる。
見ただけではダメージが有るのか無いのかわからないが、これまでの経験では繰り返し銃弾を当て続けると動きが止まるので、今回もなにかの効果は出ているはずだ、と思う。
TOXには表情もない。反応がわからない。
次にどこを攻撃してくるか、反撃する意思があるのか、表情や他の兆候で察知することはできない。
そのまま次の射撃をしようとしたところ、左側から視線を感じた。
食堂の手前に壁を外して椅子が置かれたロビー的な空間がある。視線はそこから。
正対する敵から視線を離さずにそちらを確認するため、更に二歩退がる。顔の向きを変えず横目で確認すると、護治郎くんが驚いたような目でこちらを見ていた。




