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諸々が千々に降下してくる夏々の日々  作者: triskaidecagon
第三章 降下してくる危機が近づいてくる日々
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6月24日(金)21:16 真宮窓

諸々が千々に降下してくる夏々の日々

 第三章 降下してくる危機が近づいてくる日々

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6月24日(金)

    21:16

      真宮窓

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 安藤さんと遠山さんのやり取りを耳にしながら索敵し、私は集落の外れの人家まで来た。

 ここ、佐々也ちゃんの家までにTOXの影はなかった。

 佐々也ちゃんにも今まで猫に変身した姿を見せたことはない。この姿を佐々也ちゃんに見られたら嫌なので、心持ちそっぽを向く。

 佐々也ちゃんの家の斜め向かいに展望台に向かう半舗装になった遊歩道の入口がある。

 行き先案内の看板なんかもないその道が視界に入った時、これまでに感じたことのない寒気に似た(おのの)きが身体の中を走り、全身が総毛立った。自分からは見えないけど、猫の顔で毛が逆立ってしまい、ひどい面相になったはずだ。

 道が視界に入っただけで特にこれというなにかが見えたわけではない。

 しかし確信がある。

 この道の先に敵が居る。

 これまでの少ない実戦は集参の更に後、後詰の応援での参加だったから、どこに敵がいるのか知っている状態で現場に立っていた。しかし、この時になって、初めて敵を探さねばいけない時になってみて、自分にこんな能力があるということを知った。

 この直感が正しいかどうか確信はない。

 でも分かる。この先に敵が居る。

 この感じ(・・)に間違いはない。

 私の感覚以外の根拠を示せるわけではない。思い込みとなにが違うのかも自分には分からない。ただ分かるだけだ。でも分かるのだ。この先に敵が居る。

 生まれて初めて感じる獲物を追う欲求には抗い難い力があった。

 熟慮せず、この後に起こるかもしれない問題をただ無視して、基地署には黙ったままに予感を追いかける。

 大まかな捜索地域内での捜索手順ではもちろん窓に裁量権がある。

 闇雲に敵を追うことを正当化できる根拠があるとしたら、その裁量権だけだ。


 装備していた大口径バトルライフルを構え、林の中の暗い道を登ってゆく。

 ところどころにあるソーラーのランタンは設置の頻度が高すぎ、数歩のスパンで光度の濃淡を生み出し、いまの窓にはむしろ邪魔だ。目を細め、虹彩でなく瞼で目に入ってくる光量を調整する。

 猫の目なので暗いのは問題なく見える。

 そして、光線として見えていないはずのTOXへの導線が、ことさらにはっきりと分かる。

 上り坂の途中、脇に入る小さな土留(つちど)め階段が目にとまる。

 獲物はこっちだ……。

 階段の上には半ば廃屋と化した神指邸(こうざしてい)

 神指邸は佇まいが良くてかつては村の名所みたいな扱いだったのだけど、ご夫婦が亡くなって以来、残念なことに荒れ放題だ。建屋が朽ち果てるという(さま)ではないものの、爽やかで素敵だった庭はもはや荒れ地になっており、立派な館はかえって幽霊屋敷のようにも見える。

 一方で、人気(ひとけ)のない場所だから、町中で銃撃戦になるよりずっとマシな場所だとも言える。


 神指亭の敷地内。庭木も伸び放題の草も生え放題。

 TOXが通過していった草の跡が続く。

 ……これは居る。

 追跡を開始してから初めて、正体不明の予感でなく、具体的な痕跡に出くわした。

 獲物を追い詰める興奮で息が浅くなる。

 自分の言葉で根拠を示すことのできない狩猟者の確信が、この追跡の行く先は神指邸の邸内であると告げる。

 確信に導かれ、回り込むようにTOXが通り抜けた草の跡がついた庭を抜ける。

 裏口が見える。

 立派な表玄関と違い装飾も無いが、地味ながら家の規模に見合った両開きの大きな扉。それが破壊されている。

 窓の確信通り、やはりTOXが邸内に侵入している。

 積極的に建物の中に入り込むTOXは珍しい。


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後日

   真宮窓の回想

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 まだ見えない敵を追跡する窓自身の新しい能力、窓一人で敵を追う初めての状況、家屋に入り込む珍しいTOX。

 色々な新しい事が一気に起こって、不安で視野が狭くなっているかもしれない。

 敵を追うことで獣の本能が昂奮して、視野が狭くなっているのかもしれない。

 それでも窓は止まらず、敵が居る方に向かって進む。

 窓自身が後になって思い返すと、このときに窓はたくさんの間違いを犯している。

 一人でTOXを追跡していること。

 神指邸が廃屋でなく人が住んでいることを思い出さなかったこと。

 基地署への報告を怠っていること。

 基地署との通信回線が開いているかどうか確認していないこと。


 後日、窓はこの日の自分がしたたくさんの判断ミスを護治郎に打ち明ける。

 それを聞いた護治郎は「まぁそれで良かったよ」と軽く笑って窓のミスを軽く許した。


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