……6月24日(金)20:57 TOX襲撃、三分前 :真宮窓
諸々が千々に降下してくる夏々の日々
第三章 降下してくる危機が近づいてくる日々
――――――――――― ――――――――――― ―――――――――――
サイマルストリームで公開されているTOX予報は誰でも見ることができる。
大抵の場合、最後の五分を見ている最中に自分の担当範囲が円から外れてゆく。
ところが今日は違った。
いつまでも自分の担当範囲が円の中に残っている。
つまり、まあまあ近くに落ちてくるということだ。
近隣の場合、即応でも参集でもない予備部隊に入ることになり基地署へ集合する流れとなる見込みだ。事態によっては集合中に現地集合での臨時参集になる場合もある。とはいえ、基地署への集合から参集の後詰としてさらに稼働が必要なほど規模の大きな襲撃はほぼない。
警告の場合、戦力的に即応部隊で足りてしまうからだ。
今回はルーク三体だから、決着も早いだろう。
最後の三十秒。
基地署への集合について考えていたけど、結局最後まで地図内に折瀬が残った。
そしてラスト五秒で巨大な風切り音と爆発するような衝突音が聞こえてきた。
改めて携帯端末の画面を確認したところ、落下地点として名前が挙げられているのは折瀬。 まさにここ。自分の担当範囲。
ついに来た。
いつか、一生のうちに一度ぐらいはあるかもしれないと思っていた私の番。
* * *
|[遠山さん:駐在さん]| 窓ちゃん! この集落だ @遠山|
|✿優花子✿|応援連れてすぐ行く|
迂川郷の折瀬方面駐在警察官の遠山さんと優花子から、任務用の携端にダイレクトメッセが届く。
わたしは即出動するのでメッセージを返さない。そもそもメッセージを打つのも遅いほうだ。
メッセでなく駐在の遠山さんと通話チャネルを開く。ハンズフリーで音声はイヤホン。その間に、バイクを押してガレージから前庭に出る。
同時に防衛隊の基地署からのナビゲーションの音声チャネルが自動で開通した。このチャネルでは私に拒否権はなく、自動で開かれる。
優花子からの直通チャネルの要求は無し。
普段ならまず優花子なんだけど、こういう時にこそ優花子とのチャネルがないのはなんだか不思議な感じもする。
「窓です。遠山さん、これから出ます。現在は自宅、あっ鶴ヶ商店付近。TOX見えません。情報ありますか?」
「ああ、窓ちゃん。情報はない。映像の感じだと折瀬村…、そっちだと思う。チャネルは開いておくけど、別作業をするからミュートになるかもしれない」
「私は偵察します。防衛隊基地署との回線があるので、遠山さんは私とは常時通話でなくて大丈夫です。私は偵察します」
『偵察了解。こちら基地署。これより防災無線で警戒圏内放送を行います。真宮隊員は火力の装備はしていますか。また防具の装備は忘れていませんか』
予告なく基地署の通信員の安藤さんが話しかけてきた。普段と違って丁寧語だ。任務中だという事を、安藤さんの口調から改めて確認する。
遠山さんとは別チャネル。
二箇所を相手に喋らなければいけないのはとても難しいけど、基地署の方も慣れているので別チャネルで会話をしている様子があると、待ってくれたりしているようだ。
「火力、防具ともに装備していますが、現在は変身前なので取り回しできません。移動はバイクです。目撃情報が来たら教えてください」
『変身? すぐしてください。いつ遭遇するかわからないですから』
「その……あまり好きじゃなくて……」
『いつもの参集の時は出動前に変身してるじゃないですか』
「それは隊の人しか会わないから……。集落では、普段の知り合いに会うかもしれないし……」
『その普段の知り合いを確実に守るためですから。戦闘態勢で臨まないと危険です』
安藤さんの言葉は正論で、訓練どおりにするならその言葉に従うほかない。
嫌々ながらもその場で変身する。
変身そのものは十秒ほど。
自分の体験としては体中を寒気が通り抜けていく感じだ。
目眩を伴うので、その間はほとんど身動きが取れない。体が動かないわけではないけど、動いたところで転ぶかぶつかるか、良い結果は生まないのが常だ。
変身後は身体が一回り大きくなり、外見的には人間型の三毛猫が直立している感じになる。