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諸々が千々に降下してくる夏々の日々  作者: triskaidecagon
第三章 降下してくる危機が近づいてくる日々
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……6月24日(金)15:00 TOX襲撃六時間前 :深山優花子

諸々が千々に降下してくる夏々の日々

 第三章 降下してくる危機が近づいてくる日々


――――――――――― ――――――――――― ―――――――――――

「ああ……。私は大丈夫。考えたって仕方ないことだし」

 窓はこう言って笑っている。

 窓は笑っているが、危険な任務である。

 数体の歩兵型ということは、TOX事象としては『警告』と呼ばれる種類のものにあたり、TOXを駆逐した後に攻撃要因と思われる条件を排除することで次回の襲撃が起こらないように対処するものとなる。基本的には人口の集中を改善すると警告の襲撃は終わる。稀に人口要因の改善だけで襲撃が止まず複数回の襲撃がある場合がある。そういうときにはその近隣に高度な研究所や大規模な工場や通信ハブなどがあり、それを撤去することでTOXの襲来を防ぐことができた。そして襲撃が繰り返される場合、攻撃はだんだんと激化してゆくことも経験的に知られている。

 『警告』というのはそういうものだけど、もう一方で実際の戦闘部隊にとっては本物の実戦である。宇宙から落下してくるTOXはエントリーが自由で高速であり、つまりカバーする範囲が広大だ。軍による主力戦闘部隊ももちろんあるが、初期対応は各地元の防衛隊によって担われている。

 窓には戦闘向きの能力があり、しかも強い。

 高校に通う普通の少女でありながら、同時に防衛隊では戦力として扱われている。

 防衛隊の有志隊員の一部は、能力者として戦闘能力が高い場合、ほとんど強制的に参加させられている。窓の戦闘能力は高い。つまりそういうことだ。本人が嫌がっているわけではないので、そこは良いのだけど。

 正規の隊員ではなくて有志だから限られた機会しか無いとも言えるが、戦闘そのものは本物だ。

「それに、今回は地元の張り付きだから応援に回るときは再集合してからだよ。襲撃現地にならない限りTOXとは会わない。だから隣県への応援のときより、張り付きの私に危険は少ない。優花子は輸送でしょ? 珍しい技能だし、県内ならお鉢も回ってくるんだから気をつけてね」

「輸送部隊だから、私はいつもと同じだけしか危険じゃないの。でも、現地になったら窓は一人でしばらく引きつけないといけないんだよ?」

「ここは僻地だし現地になる可能性は低いってば。だいたい、今までにこの集落にTOXが来たことはないし、今回も来ないよ。住んでる人だって少ないんだし」

「万一があるかもしれない。コンプレキシティも高いし。そのときに、私はいつもと同じだけど、窓は一人で戦わないといけなくなっちゃうから、それが心配なのよ」

「もし来た場合の訓練はしてるから大丈夫だよ。私は強い!」

 言葉を間違えた。

 窓にこれを言わせてしまった……。

 実際、変身して戦う窓は強い。

 獣の瞬発力と感覚と筋力があり、そのうえ更に人間の道具を扱うことができる。

 窓自身も戦闘力が高いことは誇りに思っている様子だけど、変身後の獣の姿には引け目を感じているらしい。その生まれつきの能力のせいで戦う境遇に身を置いているものの、戦う姿を知人には見られたくないのだ。

 窓が強いことは、窓が戦う理由でもあり、窓を人から遠ざけることでもある、窓にとっての呪いだ。本人は気づいていないようだけど、窓自身にとってそれが重荷になっているらしい様子を見せることもある。

 窓は正直な人間なので、口に出す言葉は本心である反面、あまり固まっていない考えを口に出してしまうとそれを自分でも信じ込んでしまうようなところがある。その窓に力を誇らせるようなことはしてはいけないと思っているのだけど……。

「そうだね。窓は強い。でも、TOXはなにがあるかわからない敵だから、一人で戦って勝とうとしないようにしてね。住民の避難とかを優先して、味方が来るのを待ってから反撃すれば良いんだよ」

「そうね。訓練でもそう言われてる。きっと来ないと思うけど、もし来たら優花子の言うとおりにする」

「確かに窓は強いけど、一人でTOXを全部やっつけられるほどじゃないんだから、無理せず、仲間と一緒に戦うようにしてね」

「ありがとう優花子。気遣ってくれて、優しいね」

 窓に手を取られてお礼を言われた。

 素直で正直な人柄が眩しい。

 私には窓ほどの正直さはない。

 私は優しいから言ってるのではなくて、窓になにかあったときに負い目を感じたくないから言ってるだけじゃないかと自分でも自分を疑っている。窓が大きな怪我をしたときに悲しく思わないはずはない。でもその時、私は注意するように言ったのにと、自分の責任を軽くしたいだけではないのかとも思う。

 もちろん心配もしている。でも、どっちが私の本当の本心なのかは、自分でもわからない。


 窓の家を出て、私は麓の町にある基地署に向かった。

 自動運転のタクシーに乗りながら、襲撃のために窓と引き離されるときにいつも感じる悪い予感を、今日も感じていた。

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