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諸々が千々に降下してくる夏々の日々  作者: triskaidecagon
第一章 宙の光に星は無し
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……6月20日(月) 18:30

諸々が千々に降下してくる夏々の日々

 第一章 宙の光に星は無し


――――――――――― ――――――――――― ―――――――――――

……あの広い家に一人で住んでいるゴジの様子を誰かが見に行った方がいいのは間違いないし、その役目は同い年でクラスメイトで遊び友達で幼馴染の私が適役っていうのは間違いないはずだ。

 うちからゴジの家にまっすぐ向かうならハイキングコースみたいな道の方になるんだけど、ここはスクーターで走るはずだった大回りを通ろうと思う。小道でまっすぐなら五分ぐらいだけど大回り側だと歩いて十分ぐらいになるから倍の時間かかる。とはいえ小道の方はまっすぐでも最後に結構な階段を上らないといけない上、薄暗い藪の中の細い道みたいなところを通らないといけないので夕方になると心理的にちょっとしんどい。大回りの方は二車線の綺麗な舗装道路で視界も開けているから、暗い時間帯に歩くならこっちの方が気分は楽だ。

 この大回り、立派で綺麗な道なのに交通量は少ない。

 なぜならばこの村は田舎で、この先にはなにもないからだ。

 なにもなくはないか。山しかない。山があって、車で三〇分ぐらい行くと高速道路に辿り着く。観光資源ということになっている滝に行くための駐車場と看板ぐらいは途中にあるけど、それぐらいだ。

 私の家の先、民家はもう無いけどまだしばらくは畑があるから人手の気配がある。今は誰も居ないけど一人で歩くときは人手の気配がある方が気安くはある。ゆるい上り坂になっている道を三分ばかり歩くと右手の谷側がだんだんと段差になり、最後には数メートルの落差になっていく。こうなると、段差の向こうの雑木林は下生えも見えずに幹ばっかりのような状態になる。これはこれで、そっちから動物が突然出てきたりはしないということなので安心感があるといえばある。自宅を出て五分のところでそんなに警戒してるってわけではないんだけど、夜の林は暗いから気になりはじめると怖く思えてしまうときもある。

 そうこうして、谷川の段差が背丈の数倍なるまで歩くと、『ここから先はほんとに山しかないですよ』ゾーンにさしかかり、その境目の山側には整備の悪い砂利道が見えてくる。

 砂利道の入口の真ん中に、『この先、私道。行き止まり』というできあいの立て看板が置いてある。

 ゴジの家はこの砂利道の先だ。

 実はこの砂利道も神指さんの敷地だったりする。

 大地主とかいうことではなくて、亡くなった神指のおじさんがあの小高い場所に家を建てた時に車での交通用の土地、つまりこの砂利道もついてきたという話だ。家とか土地とか買ったことがない私が聞くと、おまけで道が付いてくる感じが面白い。

 よその家の畑に面したその砂利道を少し登り、畑と別れて林に入るのかなというあたりで分かれ道になっている。横に逸れる方が家の下に作り付けになっているガレージ。まっすぐの方は数段の幅広の階段を上がって神指邸の前の道になる。

 なんだか回りくどくて難しい感じになっちゃったけど、要は大回りの道沿いに神指邸の出っ張りをぐるっと迂回して上がって、横合いから私の家の上あたりに出てきた。神社の参道で例えるなら男坂女坂のうち、女坂を通ってきたという感じのことである。この喩えは却って分かりにくいか。

 ガレージとの分かれ道から数段の階段を上がると(荒れてはいるけど)いちおう開けた場所になっていて、道っぽいところとかつては庭だったところが低い生け垣で区切られている。区切られてはいるけど道っぽい方も庭っぽい方も神指さんの敷地内だ。で、道を区切ってどうなっているのかというと、神指邸敷地の反対の出口に繋がっている。そっち側はわりと急峻で大きな木も生えてないような斜面になっていて、私の家の前から入っていく例のハイキングコース的な小道に降りてゆく土留めの階段が設置されている。

 かつて庭だった空間は、手入れがされていないからどちらかと言えば庭というよりも荒れ地だ。道っぽかったところも荒れ地だ。両方荒れ地だけど、生け垣を境にして雰囲気がどことなく違って区別はつく。

 ゴジの家の建屋がある場所は道っぽいところより少し高い場所になっていて、生け垣のかつて門だった場所から家の玄関に向かうゆるい上り坂になった小道がある。この小道はレンガ敷きだからまだ歩けるけど、早晩埋もれてしまうのだろう。そうなったら歩くのにも苦労するんだと思うと、いまから気が重い。


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