6月24日(金)15:00 TOX襲撃六時間前 :深山優花子
諸々が千々に降下してくる夏々の日々
第三章 降下してくる危機が近づいてくる日々
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6月24日(金)
15:00
TOX襲撃、六時間前
深山優花子
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サイマルストリーミングの予報では、TOXの襲撃は今夜の予定だ。時間が大きく外れることはないから、実際に今夜、降下してくるだろう。
昨日まで西日本を中心にしていた予報円の中心はぐっとずれて北関東から南東北を含む一円一二〇キロメートル圏内になった。円内には北陸地方にあたる新潟県も含まれてはいるものの、外縁付近にあたるので可能性は薄い。
私たちの集落、折瀬は八〇キロメートル圏内。
この地域には七〇パーセントの確率で落ちてくる見込みとなる。
東京も同じ範囲に入っているので、つまりは東京に落ちてゆく可能性が高い。東京以外に落ちる可能性は五回に一回ぐらいだろう。逆に言えば五回に一回、ゲームの単発ガチャで低価値レアを引くぐらいの確率で東京以外にも落ちる。住民の安全確保という防衛任務の性質上、その確率は無視できるほど小さいものではないので、私達は一切手を抜くことができない。
望遠鏡での観測によると、今回のTOXは三体。
いずれも小型の人間大。
質量攻撃タイプやクローラータイプではなくて、『ルーク』の名で呼ばれている歩兵型。
歩兵と言っても機能的に歩兵、つまり陸上を徘徊して戦うタイプであって、形は人間に似ていない。なにかの生物に似ているということもなくて幾何学的な姿をしている。
TOXとしては最もありふれていて、危険性も低い。各地の防衛隊が戦闘をして撃退することができるタイプの敵であるし、戦って撃退しなければいけないので防衛隊にとっては具体的な戦闘任務が発生する相手でもある。
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防衛軍の連絡掲示を確認すると、TOXの到来予定はやはり今夜の九時頃。
私には輸送の任務があり、準備のための待機は六時間前から開始となる。
学校のリモプレが終わり待機のために基地署に向かう。
その前に窓のところ寄って顔を見ていくことにした。
「窓……。大丈夫?」
「大丈夫って、なにが?」
TOXの到着は物理的な観測によってかなり厳密に時間が分かっているので、実際の戦闘部隊である窓も、学校のリモプレが終わって放課後になったばかりの現在はまだ待機である。
心配で話しかけても、なにを心配されているのかもピンとこないみたいだ。
わたしはどうも言葉が足りず、早呑込みで、喋っていることが伝わりにくいことがよくあるようだ。窓はそんな私に愛想もつかさずよく付き合ってくれている。気質として喋るのより聞くのが好きみたいなところが窓にはあるようで、私ばっかり喋ってしまうという悪癖があっても少しだけ良心の呵責を感じなくて済むところはありがたい。
「その、出動が近いから、心配で」
「ああ……。私は大丈夫。考えたって仕方ないことだし」
窓はこう言って笑っている。
私は実働部隊に含まれるけど、実際に戦闘をする人員ではない。持っているのが輸送の能力なので、戦闘部隊の輸送などなど、最大の危険に直面するわけではない。対して窓は戦闘部隊だ。
窓は笑っているが、危険な任務である。




