……6月23日(木) TOX襲撃、一日前 :篠田魁・叡一
諸々が千々に降下してくる夏々の日々
第三章 降下してくる危機が近づいてくる日々
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イルカに政府はあるのか、イルカの目的は、イルカの生活は、イルカの……。
調べれば調べるだけ情報はあるのだけど、時間も限られているし、細かい疑問は本人に聞いてみるのが良いのだろう。
「そういえば、叡一くんはなんでこの集落に留学に来たんだっけ?」
「ん? どうかしたの?」
「夜にも言ったけど、一昨日に転校生が来たばっかりなんだ。だから、みんな不思議がって質問されると思う」
「そうだった。銀色の髪の女の子ね。不思議がられるか、なるほどなぁ」
合同校舎までの短い登校中に、こんな事を話した。
今日は晴れ。山から来た朝の空気が澄んでいて気持ちよく、朝早ければまだ暑いというほどの気温でもなく、登校のために歩くのもなかなか楽しい。
「僕が来たのはちょっとした手違いと言うか……。本当は来るはずじゃなかったんだけど手違いで地上に降りてしまって、帰れなくなってしまったんだ。それで帰るまでの間、降りてきた付近でも人口が少ない集落に預かってもらうことになった。魁のご家族には急なことで迷惑をかけて済まないね」
「迷惑じゃない。でも、そうだとすると、準備が整ったら帰ってしまうって事か?」
そう尋ねると、叡一くんは少し驚いた様な顔をした。
「ああ、そうかもしれない。でも、まだ良くわからないんだ。元々留学には来る予定だったから、話の運び次第ではこのまま日本に留学できるかもしれない」
「それで用意ができたら早めに帰りたいと思ってるか、それともこのまま留学したいか、どっち?」
「どうかな……。半々ぐらいだな。地球に行くことを誰にも知らせてないからそれが気掛かりなところはある。でも、元々留学には来る予定だったから、条件が良ければこのまま留学できるのは嬉しいし」
「そっか。どっちも分かるな。……とにかく、あんまり気軽には帰れないんだな」
「帰れないね。なんだかんだでイルカが地球から出るのは大変だ。ロケットだって自由に飛ばせるわけじゃないからね」
人間が宇宙開発をしようとするとTOXから攻撃される。理由は分からないけど、常識としてみんな知ってることだ。とはいえ、人工衛星ぐらいなら飛ばしても大丈夫だ。でも宇宙ステーションぐらいになるとこれは優先的に壊される。
このギャップを利用して宇宙でTOXを自動的に攻撃する迎撃衛星を準備したこともあったらしいけど、一度使ったら次からは人工衛星がまず狙われる事になった。
「ロケットだもんなぁ。叡一くんが乗らなきゃいけないわけだし、人が乗るようなロケットなんて確かに気軽に用意できるものではないなぁ」
「人が乗るかぁ……。まぁ、人みたいなものではある、ね。たしかに帰るのが遅れると恋人にも会えなくなるけど、帰ったときの土産話はたくさんできそうだから、それで許してもらうよ」
「恋人がいるの? かわいい子?」
「人じゃなくてイルカだけどね。居るよ。可愛いかどうかは、考えたことはないな。……そもそもイルカ同士の恋愛では、あまり恋人に対して抱く感想ではないね」
「文化の違いってやつか。難しいな。でも、恋人がいるのに急な話なら、それは辛いなぁ」
「宇宙で暮らしてるから、僕達の生活では一度離れると次に会うまでに間が空いてしまうのは普通のことなんだ。だから、辛くてたまらないってほどでもないよ。急なことで再会の約束ができてないのが心残りだけど、連絡が取れるようになったらそのときに伝えられるからね」
「それでも悲しいよ。恋人なのに」
「ありがとう。やっぱり魁はいいヤツだね」
「まさか。普通だよ」
登校日ではないよく晴れた朝、新しい友達と恋人の話をしながら歩くのは、限られた知人ばかりが住んでいるこの村で経験のないことなので、とても晴れがましい気分になった。
合同校舎に到着したのは授業開始の十五分前。
今日は小学生の登校日で、気の早い小学生がもうすでに校庭でボール遊びをしていた。
目ざとい女子がこちらを見つけて声をかけてくる。
「魁くーん! それ誰ー?」
「新しい転校生だよ! 叡一くんって言うんだ! 後で先生が紹介してくれると思う!」
遠くからの声に手を振りながら答えて、下足箱の方に向かう。
イルカだということはまだ伏せておく。
先生から聞かされたらきっとビックリするだろう。その時のお楽しみだ。
叡一くんも合わせて手を振っていた。ボール遊びをしていた小学生たちも一度遊ぶのを止め手を振り返してきて、なんだか賑やかな光景になった。
「今のうちに、小学校の先生に挨拶しておこう」
そう言って叡一くんを職員室に案内した。
先生はもちろん転校生を知っていたけど、クラスが違うので今日会うとは思っていなかったそうだ。昼休みに小学生を連れて僕たちの教室にみんなで挨拶に行くという相談をまとめるうちに、始業のチャイムが鳴った。




