……8月19日(金) 12:00 折瀬分校舎・登校日
諸々が千々に降下してくる夏々の日々
第十八章 夏の夜空に飛ぶイルカ
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やちよちゃんは能力者だけど実生活で役に立つようなもんでもないし、東京の抗生教の巫女って言われてもピンとくる人も居ないだろうから、同じ年頃の集団を相手にするのは意外と手こずるんじゃないだろうか。
私としてはそのへんを加味しつつ、たまに対して「やちよちゃんの勉強を見てやってくれ」とお願いしている。
ぞっちゃんは、あのあと帰ってきてから『ゾミーちゃん』として新たにチャンネルを立ち上げた。
よれひーさんのところで伝手ができたとかで、ストリーマーとしての交流なんかもしているそうだ。結局、歌と踊りのレッスンなんかも初めて、アイドル的な活動を目玉として、ゾミーちゃんとしていろんなことをやっていきたいと言っている。
そうか……、ゾミーちゃんで行くのか……。
「さーちゃん、バーベキューは?」
撮影以来、すっかりさーちゃん呼びだけになっている。
別に構わないけど。
「あっ、そうだったね。ちょっと色々あったから忘れてたよ」
「じゃあバーベキューしよう。いつが良い? 今日?」
「いや、私はいつでも良いんだけど、また急だね。でも、今日ならやちよちゃんを連れて行ってもいい? あとミキちゃん」
「それは歓迎だけど、撮影するよ? 大丈夫なの?」
「あー、それは聞いてみる。やちよちゃんは撮影が駄目ならたまに押し付ければいいだろ」
「えっ魁くんに? 二人は知り合いなの?」
「知り合いだよ。しかもやちよちゃんはたまが好きみたいなんだよね。たまも満更でもないみたい」
「うっそ、大スクープじゃん」
「あっ、マスコミの取材はお断りですよ。やちよちゃんはたまが好きとかそういうの、そもそもよく分かってないかもしれないし」
「う〜ん、佐々也ちゃんほどじゃなさそうなもんだけど……」
ぞっちゃんはそう言ってゴジと窓ちゃんの方を横目でちらっと示す。
ゴジが窓ちゃんと付き合うことになった、という話はつい先日、本人の口から聞いた。
その時に聞いたんだけど、実は、ゴジはもともと私のことが好きだったそうだ。
私は気がついていなかった。
そのことを正直に答えたら怒られた。
私はゴジに対して確かに特別な感情を持っているし、窓ちゃんとゴジが仲良くしていると複雑な気持ちになるのは確かだと認めた上で、それでもゴジに対して抱いているのは恋愛感情ではないし、ゴジと窓ちゃんはお互いが必要としているものを与え合うことができる似合いのカップルになると思うと正直に思っていることを伝えたら、もっと怒られた。
「佐々也には人の心がない」とまで言われた。
それが非常に強い罵倒であることは理解できるものの、実際のところゴジの告発に関しては私自身も認識しており、改まるかどうかはわからないけど反省がないわけではない。
ゴジが怒っているのでもっと言葉はしどろもどろだったけど、要約するとそういう意味になることを答えたら、「知ってたよ。それが佐々也の個性だし、もっと言えば佐々也の良い所の一部でもあるから僕が怒ったからって治したりする必要はない。そもそも僕が言った事は、佐々也のせいじゃないという意味でどちらかといえば逆恨みに近い。だから佐々也はそういうところを直す必要はないけど、僕にだって僕の気持ちや言い分がある。これから先、僕は同じ恨み言を二度と言わないつもりだし、僕が怒っていることを気にしすぎる必要はないけど、僕以外の人にはもう少し気を使ってあげたほうが佐々也自身も生きていきやすいと思うよ」と、説諭された。
まぁ、諦められてしまったのだと思う。
なんとなく寂しいと感じるけど、ゴジと私の関係はこれから変わるのだろう。
もう変わったのかもしれない。
でも、ゴジから嫌われたということではないみたいだから、最悪の結果ではないと思う。
「……」
ぞっちゃんから言われたことはひとまず黙殺して。
「バーベキューに参加したいかどうか、ミキちゃんとやちよちゃんに聞いてくるね」
中学生たちの部屋に向かおうとしたところ、中学生たちがこちらの部屋にやってきた。ミキちゃんはゴジのところに、やちよちゃんはたまのところに、他の子達はそのふたりを見届けてから、私とぞっちゃんのところに来た。
なんで私? と思ったら、例のあの指の形をしている。
ああっ、私も有名人だった!
しかも子供受けしそうなやつ……。
もうだいぶ経ったような気がしてたから、すっかり忘れていた。




