8月19日(金) 12:00 折瀬分校舎・登校日
諸々が千々に降下してくる夏々の日々
第十八章 夏の夜空に飛ぶイルカ
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8月19日(金)
12:00
折瀬分校舎・登校日
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八月も半ばが過ぎて、自由参加の登校日。
登校日だからと言って特にこの日のための課題なんかがあるわけでもなく、教室で顔合わせをするだけの日だと言って良い。
顔合わせをするためだけなのでテレプレの人も多いし、旅行先からテレプレで参加するような子も居る。
私は下の町の本校舎まで含めたクラスの中では目立たない子なので、例年、熱心に参加するわけではないんだけど、今年は違う。例の番組に出ちゃったから目立つ子になった、ということではなくて、転校生をふたりも学校に連れて行く立場になるからだ。
番組のせいで目立つ子になっているのも嘘ではないんだけど……。
転校生、つまりミキちゃんとやちよちゃん。
どちらも中学生、ミキちゃんが一年生でとやちよちゃんが二年生だ。
そうそう。そういえば、幹侍郎ちゃんを呼ぶときの名前がミキちゃんになった。
私達の間では本名幹侍郎、通称ミキちゃん。
世間的な本名と、これからの呼び名をミキちゃんで統一しようという申し合わせになった。呼び名を本名の方に合わせないとうっかりでポロッと漏らしてしまいそうだからだ。
数奇な出生や機械の体という身の上はもちろん隠す。
ついでにハルカちゃんの妹という設定にした。
なにしろ二人は髪の色こそ違っても外見がそっくりなものだから、二人が姉妹でなきゃ無理があるぐらいだ。ゴジとは設定上では親戚。更には夏までに看病をしていてすごく懐いていてお兄ちゃんと呼んでいる、という設定。
ハルカちゃんが適当に決めていたゴチャついた身の上と色々と辻褄を合わせた結果、ミキちゃんはお姉ちゃんのハルカちゃんと一緒に外国から逃げてきて、夏前までは親戚であるゴジの家に匿われていたんだけど、心の傷が深くてしばらくは人前に出てこれなかった、という事になった。
なんだか陰惨な設定になってしまったけど、本人が快活な性格なのでそのうち話題にならなくなるだろう。
なにしろ、もうひとりの方も強烈な設定だ。
いや、設定というかモロに事実なんだよな、やちよちゃんは。
東京の抗生教の巫女で、中学には通ってなかったけど私と知り合いになったので、その伝手で特例としてここの学校に通うことになったというもの。
ほとんど完全に事実ではあるけど、さすがに教主というのは伏せておくことにした。やちよちゃんも伏せるのに賛成だそうだ。
基本的にやちよちゃんはテレプレで授業に参加になる予定だけど、都合が付いたら折瀬で実際の登校もするということになっている。そうは言っているけど、学業に興味が出たとかじゃなくて、やちよちゃんはたまと一緒の学校に通いたいってだけだ。
だからテレプレだけと言いつつ、結構な頻度で折瀬に来るような気はしている。友達係の私が居るから口実も作りやすいだろうし。
いやもう私から見ると可愛らしいんだけど、たまはあれで学校では結構な人気者なので、やちよちゃんはこれからなかなかの闘争の歴史を歩むことになるのではなかろうかなぁ……。
やちよちゃんは能力者だけど実生活で役に立つようなもんでもないし、東京の抗生教の巫女って言われてもピンとくる人も居ないだろうから、同じ年頃の集団を相手にするのは意外と手こずるんじゃないだろうか。
私としてはそのへんを加味しつつ、たまに対して「やちよちゃんの勉強を見てやってくれ」とお願いしている。