……8月7日(日) 12:00 池袋抗生教本部・佐々也
諸々が千々に降下してくる夏々の日々
第十八章 夏の夜空に飛ぶイルカ
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ところで、私を東京に連れてきて、東京をTOXの標的にしたとも言えるのはやちよちゃんだ。私としては保護してくれることに感謝しかないし、TOXに襲撃される感情的な責任を自分のみの状態から分散してくれているのも正直なところありがたい。
そのやちよちゃんは――なんとなくそうじゃないかとは思っていたんだけど――抗生教の中では結構なお姫様という扱いをされているらしいことが、ここ数日でなんとなく分かってきた。
いままではやっぱりその辺を隠してたみたいだし、実際に私もけっこう誤魔化されてた。
でもまぁ教団に対する振る舞いを見ていると、おそらくやっぱりそうだろうという気はする。
もう少し詳しく分かったことを並べると、現在のやちよちゃんは若すぎるために筆頭巫女のような役割をしていることになっているとか、一方でやちよちゃんにしてみれば特に何かの権限なんかがあるわけでもないので飾りの身分だと思ってることだとか。
私とハルカちゃんと叡一くんと三人も連れてきて保護させてるんだから権限が無いわけないんだけど、かと言って御目付のような教団の人を相手に頭が上がらないようなところはどうしてもあるらしくて、そういうところが不満なんだろう。
やちよちゃんに先代の教主なりご両親なりという、お目付け役の他に保護者に当たる人が居ないのかと聞いてみたら、先代は居るけどやちよちゃんを見つけるための一時的な役目だったと言い張って早々に引退してるとか、親は居ないとかのことを教えてもらった。
やちよちゃんの説明は細かい部分では相変わらず要領を得ず、よく分からない。とはいえデリケートな話題だけに、あまり深くも聞き出せない。
私達のことを、教団の人があまり無理無く受け入れてくれたのはもちろん教主の命令だからというのが最大の理由だろうけど、周囲の人の様子を見ていると、どうも年齢的に周囲と合わずに孤独になっているやちよちゃんの友達をやって欲しいというのはかなりの本音のようだ。
私は他人の気持ちに共感したり同情したりという事もあまり得意ではないのだけど、やちよちゃんは能力があるだけで普通寄りの感性の子なので、ここに一人で住まわせるのが良くないのは分かる。
逆にあの性格の子が友だちを作れないのはなんとなく納得できないんだけど、もしかしたら教団内の身分が邪魔をしているのかもしれないという事を理屈でならば理解できないこともない。
まぁご多分に漏れず、誰かの友人をするのも私は苦手だから適任とは言い難いのだけど、人員的に替えの効かない役目ではあるし、幸いなことにやちよちゃんとはすでに友達だからできないことをする努力も必要ではない。
ストリーマーの方はともかく、こっち方面は最大限頑張らせてもらいたい。
そう!
そういえば、私が眠ってる間のことで、すごく大事な話があった。
幹侍郎ちゃんがハルカちゃんの姿になったこと。
これが何故なのかをゴジとハルカちゃんから聞いた。
要約すると、いろいろと時間的に逼迫した結果発生した事故みたいなものなんだそうだ。
ゴジに聞いてみたところ、幹侍郎ちゃんの新しい姿についてハルカちゃんからはっきり説明はされていたけど、説明の内容が半分ぐらいしか理解できなかったから、まさかハルカちゃんそっくりになるとは思ってなかったし、髪の色ももう少し暗い色を指定したつもりだとか。
なんでそんな事故が起きたのかということをもう少し聞いたら、とりあえず眠ってしまった私を東京に送るために時間的な無理をする必要があり、いろいろと時短策をした結果、ハルカちゃんの社会性が節約されて説明下手になってしまいゴジが細かい部分を理解できなくなってしまった。ハルカちゃん『みたいな』身体になるのだと勘違いしていたんだけど、時短できる最速で確実な方法としてハルカちゃんの身体をそのままコピーするという解決方法になっていたということらしい。
で、ハルカちゃんの方も社会性が節約されていたので、特に再確認したりせずに進めてああなった、と……。
ゴジが意外と後悔したりしていないことまで含めてなんとなく釈然としないものを感じるけど、ゴジが良いなら私が異論を挟む事でもないように思う。




