……8月6日(土) 8:00 抗生教本部・佐々也覚醒
諸々が千々に降下してくる夏々の日々
第十八章 夏の夜空に飛ぶイルカ
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「佐々也ちゃん。幹侍郎ちゃんが話したいって」
「うん……」
幹侍郎ちゃん、もう話ができるのか……。
三日間、思っていたより十倍ぐらい長い間眠りこけ、その間には私のような凡人が参加できない大冒険を見逃しちゃったんじゃないかという予感がしてる。
とはいえ眠りこけて目覚めて、最初に幹侍郎ちゃんと話ができるのは嬉しい。
色々なことをおそらく見逃してしまったという私の支払った代償が無駄にならず、良い結果になったということだ。
一番気になってたことをまず確認できるんだから嬉しいけど、死んで生き返った、と言っていいのかどうか、とにかくそういう相手だと思うとなんか緊張する。普通にしてれば良いんだと思うけど。
「映像通話にして良い? えーと、これだっけ?」
ぱっと、通話アプリの映像部分に向こうの光景が映る。
そこに現れた人物の姿に私は驚いた。
画面に表示されていたのは、小学生ぐらいの頃のハルカちゃんの写真だった。 これは……グリーンバック透過の無指定時の当て込み背景映像をデフォルト表示してる?
ハルカちゃんの自分の画像を? ナルシスト……いやあんまりそういうタイプでもないよな。なんでハルカちゃんの昔の写真が……ん? 小学生ころのハルカちゃん? ハルカちゃんって、ついこのあいだ地面から生えてきたばっかりじゃないっけ?
目の前の光景に混乱していると、その写真だと思っていた女の子が「佐々也ちゃん!」と呼びかけてきながら、サムズアップをしてきた。
「おはよう、佐々也ちゃん! 佐々也ちゃんが帰ってたときに僕は寝てたから、会えなくて寂しいけど、いまは通話できてよかった!」
話している内容は幹侍郎ちゃんだけど、目の前にいるのは幼いハルカちゃんに見える。
絶句したままソファの上のハルカちゃんと見比べてみたけど、実際のところ幼さと髪色を除いたら、瓜二つと言っていいぐらいそっくりだ。でも金髪だ。
ソファの方のハルカちゃんは露骨ににやけた表情をしている。
にやけながら、なにも口は利かずにモニタの方を顎で示してそっちと話をしろと促してくる。
「幹侍郎ちゃんな……の?」
「そうだよ、僕幹侍郎。でも佐々也ちゃん、背中なの?」
「え? あーっと、カメラどこなんだこれ? そっちでは映ってる?」
「映ってるよ。いま背中が見える。さっき一瞬だけ顔が見えた」
「あ、ごめん。カメラ無くて、私の目だわ」
「ハルカちゃんの目? そんな事ある? やだよ私、幹侍郎ちゃんの方を向いて話したいよ」
「動かしていいから。モニタの下に置いていいよ」
「えーっ、触りたくないなぁ」
喋る生首だよ? 気持ち悪いって。
とは思うものの、流石にそれを直接口には出さない。
「僕も佐々也ちゃんの顔を見て喋りたい……」
「……わかりました」
幹侍郎ちゃんに言われたらもう仕方がないので、ハルカちゃんの生首を持ち上げてモニタの前に運ぶ。
意外と重い……、けど同じぐらいの大きさの中身の詰まったサッカーボールだと思うと、それよりは軽い。生々しい生首感のある嫌な重量を感じながら、モニタの台の上の良さそうな場所に首を置いてこっちを向けた。
「どう? 見える?」
よく似た姉妹にしか見えない二つの美少女の顔がこうして並んでいるのは変な光景だ。しかも片方は首だけで、ニヤニヤ笑ってる。気が狂いそうだ。
とりあえず画面に集中して、首だけの方を意識から外すよう努める。
「佐々也ちゃん、親指のこれ、やってくれないの? 前に話した時、言ってたのに……」
「あ、はいはい、ごめんね。んー」
目の前の人に促されたので、半分自動的に私の持ちギャグということになっている仕草をやってみせる。なんとなく決まりになったその仕草を終えてから、もう一度問い直す。
「み……、見た目が変わったんだね……」