8月6日(土) 8:00 抗生教本部・佐々也覚醒
諸々が千々に降下してくる夏々の日々
第十八章 夏の夜空に飛ぶイルカ
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8月6日(土)
8:00
抗生教本部
佐々也覚醒
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「うーん、よく寝た」
なんだか目が覚めた瞬間から疲れている。
喉もめちゃくちゃ渇いてる。
これは知ってるぞ。
寝すぎるほど寝てしまった後、寝てる時にやたら壮大な夢を見ていたりする時、目覚めた瞬間にどことなく疲れたような気だるさを感じる場合がある。そういう時、身体の倦怠感とは裏腹な抜群に明瞭な意識状態で時計を見て、寝すぎたことに気がついて驚いたりするのだ。
え? 十二時間も寝てたの? みたいに。
枕元、を探すけど、時計が見つからない。
時計どころかなにも見覚えのあるものがない。
ソファーで寝たはずなんだけど、これは布団だ。
変なところで寝たから運ばれたのかもしれない。
としてもここはどこだ?
部屋を見回すと壁がやけに白い、わりと広い畳の部屋。ゴジの家にこんな部屋は無い。どこだここは?
見回していると、なんとなく畳の部屋に似つかわしくないような、学校の教室に掛けてあるようなそっけない丸い時計が壁にかかっているのを見つけた。
八時。
午前なのか午後なのかは、文字盤からはわからない。
幹侍郎ちゃんの件で十二時前には眠ってしまったけど、朝ならば眠り過ぎという時間ではない。いまのこれだけのよく寝た感からすると、もしかして夜か?
この部屋は三方が壁に囲まれていて、残りの一方は障子。障子の向こうはこちらと同じ程度の明かりが点いている様子だ。
残りの三方の壁には床の間的な場所や全面襖にはなっていない押入れようなクローゼットなんかがあって、古典的な和室と言うより旅館の部屋のような感じだ。
見回しても陽光の有無、今が朝の八時か夜の八時かはわからない。
私の私物も見当たらない。
まぁ服は着てる……、あれ?
着てるけど、これは私の中学校のジャージだ。寝むり込んだ時に着ていたのとは違う。まぁ寝間着には違いないけど。
寝てる最中に着替えさせてくれたのかな?
ゴジが?
いや、ハルカちゃんかな? ゴジじゃあ恥ずかしがっちゃって無理だよな。
寝間着は良いや。携端は……、見回しても無い。
たまと話したいやちよちゃんに貸しっぱなしだったな、そういえば。
いずれにせよ喉が渇いた。トイレにも行きたい。
室内には飲み物は見当たらないから、障子を開けて部屋を出る。
* * *
「おはよう、佐々也ちゃん」
障子の向こうには、机椅子のある板の間のもう少し大きい部屋。相変わらず窓は無い。
どこからかハルカちゃんの声が聞こえた。
姿は見えない。
いまは身体の欲求があるので、ハルカちゃんの姿よりそっち優先だ。
「あ、ハルカちゃん。飲み物とトイレどこ?」
「トイレはあのドア。飲み物は、あっちの台所になにかあるんじゃない?」
「ありがとう。でもそれにしても、……ここ、どこ?」
「東京の、佐々也ちゃんと私の部屋」
「東京? 私の部屋?」
思いも寄らない回答で、頭の中に疑問が渦巻く。
とはいえ生理的な欲求が収まるわけではない。
「……とりあえずトイレに行ってくる」
「で、私の部屋ってどういう事?」
トイレをすませて、給水も済ませて一息ついた。
トイレを出てすぐのところにあった台所には小さな冷蔵庫があって、冷蔵庫には水が冷やしてあった。他には特になにも入っていない。
小さめの簡素なグラスが台所においてあったので、それを使ってひとまず二杯の水を飲む。三杯目も注いだけど、とりあえずいまは水分は入って行かない感じだ。コップを持ったまま元の部屋に戻る。
「……佐々也ちゃん、今っていつなのかわかる?」




