……8月4日(木) 22:30 大宮:みぞれ
諸々が千々に降下してくる夏々の日々
第十八章 夏の夜空に飛ぶイルカ
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見つけたの? どこどこ!
「あそこです。赤というかオレンジの、光だけしか見えないですけど……」
「あの電波塔の天辺から右斜め上の方にまっすぐ行くと、赤っぽいような。ただちょっと小さくて、あんまり自信ないんですよ〜」
あれかな? 確かに……。小さい……。よし、光学ズーーーーム! 二倍! よし、必殺光学一〇倍! あっ、見えたかもしれない! ただカメラの映像が小さくて僕の目に自信が……。えい! 奥義デジタルズーム更に四倍! 見えた!
「やっぱりあれですか〜?」
たぶんね。視聴者さんによると、宇都宮の上空は通り過ぎたって話だから、いまは古河のあたりかな? だとすると方向も合ってるし。
「そうなんですか〜。すご〜い」
あれっぽいですね。教えてくれてありがとう。じゃあ、引き続きお願いします。さて、みーちゃんさんのお陰で飛行物体、イルカが見つかりましたので、まずはズームでお楽しみください。赤っぽい尾を引いているということでしたけど、なんだか聞いてた印象より短かくないですか? 角度の問題かな?
よれひーさんから立ち去れの気配を感じたので、素直に身を引いて場所を変えていく。
「ズームで見せてもらって、間違いないってわかりましたね。蝋燭の炎より少し赤っぽいぐらいの色の光が伸びてました。ロケットの炎みたいにビューって」
「あ、でも、私は前に友達が小さいロケットを打ち上げるのを見たことがあるんだけど、炎はあんな色じゃなかったですよ。色なんて無かったというか、白だった気がするかも……」
「そうだ、さーちゃんもね、そのロケットの時に一緒に居ました。さーちゃんもこれを見たかったんじゃないかなぁ。一緒に居て、ロケットの話とか聞けたら良かったのにな〜」
「あ、すいません。一週間ぐらいずっと一緒に居たから、なんだか淋しくなっちゃっただけで、あんまり深い意味はないです。いえ〜い! ……指を……こうだっけ? 無言でいい? 無言でポーズするの、なんかやりにくくて……」
「あれっ? 赤い光が消えましたか? あっ。出てきた。でも、形がなんか違うような……。よれひーさ〜ん! ズーム見せてくださいよ〜!」
あ、みーちゃんさん、今度はどうしたの?
一回消えた? それで再点灯? 形が変わった?
わかりました。最初っから奥義、デジタル二倍でいきなり二〇倍ズーム! 確かに……。さっきまでは下が細かったけど、いまは上が細いかもしれないですね……。上下はどういう……。
あ、現地に近い人からのコメントがありますよ。どれどれ……、後ろに伸びてた噴射炎が消えて、前向きに出て逆噴射になった? だそうです。
「え〜っ、現地の人もいるんですね〜。すご〜い。どうですかぁ? 音は大きいですか? こっちではちょっと大きくなってきましたよ〜」
もしかして僕の配信のコメントに話しかけてます?
どうです皆さん、現地の方。音は大きいですか?
あ、ラグがありますので返事はちょっと待って……。
えーと、「うるさい」「大きいどころじゃない」「鼓膜が壊れた」「鼓膜が無くなったから新しいの買いに行く」……だそうです。そんなに音が大きいんだ……。
「わ〜、急に出てきて質問したのに答えてくれてありがとうございま〜す。あんまり長居するとお邪魔なので、私はこれで失礼しま〜す」
みーちゃんさん、ありがとう。また情報共有が必要かもと思ったら遠慮なく来てくださいね。視聴者さんもみーちゃんさんが来てくれると嬉しいみたいだし。
えーと、みーちゃんさんには別途動画を撮ってもらっています。私のは緊急生ストリーミングで、みーちゃんさんのがレポート動画って感じですね。スタッフはみーちゃんさん側にカメラが一人ですので、情報共有手段が不足しています。みーちゃんさんは投げっぱでお願いしても自分でディレクションしながら喋れるからすごいよね〜。実力派だ。
「遠くでよれひーさんに褒められた気がしますけど、よく聞こえなかったから後でアーカイブを見よーっと」
立ち去りながら、自分の録画の方のマイクにそういう音声を入れておく。