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諸々が千々に降下してくる夏々の日々  作者: triskaidecagon
第十八章 夏の夜空に飛ぶイルカ
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……8月4日(木) 22:30 大宮:みぞれ

諸々が千々に降下してくる夏々の日々

 第十八章 夏の夜空に飛ぶイルカ


――――――――――― ――――――――――― ―――――――――――

「わかりました。だとしたら私はエレベータを出たら右に行きます」

 指示によれば私は探し始めるのに余裕があるので、よれひーさんに北を譲っただけのことだけど、説明する時間がなかった。

 到着したら即、ということなので、桜さんの方を見て喋り始める。

「テストテスト。はじめて大丈夫ですか?」

 あ、念の為マイク使ってください。小さいやつがあります。でも固定する場所が無いので手で持って。マイク……えーとマイクヘッドの音を取るところは叩かないようにしてください。壊れるから」

「はいわかりました。始めますね。マイクオ〜ケ〜?」

「オーケーだと思う。どうぞ」

   *   *   *


 エレベータから出たところの小さな部屋。

 屋上側の重い鉄扉を開けて、屋上を右に向かう。

 後ろの桜さんの方に顔が見えるように心がけて、振り向きながら進む。

「こんにちわ〜。みーちゃんで〜す。いま大宮に居るんですが、なにかが飛んでくるらしいという話を聞きまして、急遽撮影をしています。急遽なので、番組名称未定で〜す」

 数歩進んでよれひーさんのための道を開けて、完全に振り向いて足を止める。

 番組開始の早い段階で画面に正対しておきたい。出演者としての私の印象付けだ。顔はもちろんカメラの方をまっすぐに見ている。

 背景音には、ものすごく低く遠い、(うな)り声が響いてるように感じる。


「いま、外に出て、その飛行物体を探しているところです。なにかすごく低い音が聞こえているような……。耳と言うより、胴体で音を受け止めているような印象です。ビリビリしてる感じがしま〜す」


「ただもう大きな物が飛んでるということ以外、私はなんにも知らないんですよね。北の方から来てるということだけ聞きました。じゃあちょっと北の方の空を向いて、実際に探してみま〜す」


「う〜ん、わかりませんね〜。やっぱり夜の空は暗いな〜。響く音はなんだかだんだん大きくなっているような気はするけど……。ん〜」


「あ、目が慣れてきたらでっかい塔が見える! 桜さん、あれ、なんですか? 電波塔? 昼間ならいつでも見えるから気にしなくて良い? それもそうですね! じゃあ空を見て、えーと尾を引いてるんでしたっけ?」


「ん〜。あ、音が、音がはっきり聞こえるようになってきましたね。ゴーって。桜さん聞こえますか? え? マイクで拾ってるかわからない? じゃあちょっと空にマイク向けてみますね。どうですかね? わからない? え〜っ、聞こえますよ〜っ」


「あっ! えーと、尾の色って赤でしたっけ? あれじゃないですか? 見えない? あれだと思うなぁ。ちょっとよれひーさんのところに行って聞いてみましょうよ。実はよれひーさんもあっちでね、生配信をやっているんですが……。大事なところだといけないのでちょっと耳を澄まして……。おっと。どうやらコメント拾ってるみたいですね。カメラもよれひーさんの方を向いてる。じゃあ声掛けちゃっていいですね。お〜い、よれひーさ〜ん!」

 えっ? あれ? みーちゃんさん? どうしたの? 番組中じゃないの?

 あ、みなさんすいません。撮影中のみーちゃんさんが来てくれました。

「番組中ですけど、もしかしたら飛行物体を見つけたかもしれないと思って。いち早くお知らせしようかな〜って思いまして……。いやごめんなさい。ほんとは見つけたのが本物かどうかあんまり自信なくて、一緒に見てもらいたいなって」

 見つけたの? どこどこ!

「あそこです。赤というかオレンジの、光だけしか見えないですけど……」

 光? 色はね、視聴者さんによると、確かに赤っぽいオレンジだって。だから多分合ってると思うんだけど……。ちょっと僕には見つけられないなぁ。

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