8月4日(木) 22:30 大宮:みぞれ
諸々が千々に降下してくる夏々の日々
第十八章 夏の夜空に飛ぶイルカ
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8月4日(木)
22:30
大宮
みぞれ
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予定外で佐々也ちゃんたちが帰ってしまって、宿に一人きりになってしまった。
それでなんだかさみしくなって、さーちゃんと一緒に出演していた番組のコメントをチェックしていたら、メッセンジャーによれひーさんからコメントが入った。
「飛行物体が大宮を通るらしい。番組、出られる?」
「出ます。何時の何処ですか?」
ここで通話に切り替わった。
「五分後。屋上に行くから、スタジオ前に集合で」
「五分! わかりました。間に合わなくて少し遅れるかもしれません。その時は折り返しください」
「うん。スタッフは僕と桜さんだけになるよ」
まだお風呂に入ってはいなかったから、手を抜いて外出着のままで居たのは助かった。五分なんて普通に移動時間なので、椅子の背にかけてあった薄い上掛けを選ばず適当に手に取って、着ながらサンダルで玄関を出る。
鍵はちゃんと閉める。
息が切れない程度に、でも急ぎ目に早足で移動して、すぐ隣のスタジオのある建物に駆け込み、降りてきていたエレベータで待ち合わせの目的階へ。エレベータの前にはいつもの格好の桜さんが立っていて、すぐ乗り込んでエレベータの『開く』のボタンを押し始めた。
「みーちゃん、早かったねー」
「あはは。ちょうど暇にしてましたから」
「飛行物体の話、聞いた?」
「いえなんにも」
「それはディレクターとしてよれひーさんから説明すると思う。よれひーさんは屋上の使用連絡入れてて、すぐ来るから。あ、出てきた」
「あー、みーちゃんさん、早いね―!」
「飛行物体の話、知らないそうですよ」
よれひーさんが乗り込んできたら、すぐ『閉る』のボタンを押す。いつ押していたのか、行先の屋上ボタンはすでに光っている。
「東北の方から南に向けて、轟音を発する飛行物体が赤い尾を引きながら空を飛んでいて、すぐにも大宮を通るらしいんだ。噂によるとイルカがああいう形らしいとか、三十分前ぐらいから東北の南端……つまりみーちゃんが来た折瀬のあたりから飛び始めたらしいとか」
「わ〜、イルカが飛んでるの見たことな〜い! あれ? 折瀬の辺りからイルカですか?」
「うん。確かクラスメイトにイルカが居るんだよね?」
「居ます! 本人かどうか、見たらわかるかな?」
「どうだろう? で、僕は自前カメラで生中継するけど、みーちゃんさんは桜さんに動画撮ってもらってください。できればクラスメイトのことは言わないで」
「東北は言っても良いですか?」
「地元と言わなければ」
「だったらさーちゃんの話をしよ〜っと。さーちゃんこういうの好きだから、一緒に見れたら良かったのに」
「うん。それじゃあ屋上に出たら合図無しで始めてください。僕も後から出ますので、画角の事もあるからできるだけ横に捌ける感じで移動をお願いします。桜さんも、まず最初はみーちゃんさんを画面に収めて、それから空の異変を捜す感じでお願い。僕はまず空だけ映して捜すからから、そっちは発見が遅れても気にしないで。役割分担だから」
「はい。あ、そうだ、北ってどっちですか?」
「北? あー……どっちかな……」
「えーと入口が北向きだから、エレベータ出口が東向きで……。出て左手が北」
よれひーさんは咄嗟には判らなかったみたいだけど、桜さんが教えてくれた。
「わかりました。だとしたら私はエレベータを出たら右に行きます」
「え?」
よれひーさんがびっくりしたところで、エレベータが屋上に到着。
指示によれば私は探し始めるのに余裕があるので、よれひーさんに北を譲っただけのことだけど、説明する時間がなかった。




