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諸々が千々に降下してくる夏々の日々  作者: triskaidecagon
第十八章 夏の夜空に飛ぶイルカ
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……8月4日(木) 17:30 護治郎

諸々が千々に降下してくる夏々の日々

 第十八章 夏の夜空に飛ぶイルカ


――――――――――― ――――――――――― ―――――――――――

「あ、うん。じゃあ僕は窓ちゃんが戻ってくるまで地下には降りないことにするよ」

 衣類を入れるのにどうぞとさっきの巾着を手渡しすと、窓ちゃんはそこに佐々也の服を揃えて入れてリュックの中に収めてくれた。そして、佐々也が寝巻きに使っている中学の頃の体操着ジャージを持って地下へ向かった。

 荷物は一段落。次は地下から運び上げて、叡一くんに引き渡すための準備だ。

 僕はこの前出してきた寝袋をまた取りに行く。

 寝袋は手足が飛び出ずにひとまとまりになるから、なんとなく運びやすそうだ。

 でも、本当に寝袋に入った意識の無い人が本当に運びやすいかどうかちょっと自信がない。なんというか、持ち手が付いてないから、一瞬持ち上げるのには良いかもしれないけど、抱えあげて運ぶのは難しいかもしれない。

 だから滑りにくそうな素材の大きめのタオルケットも用意しておく。より良い方を使えばいい。

 他に、運搬用具としてブルーシートとロープ、切って使いやすい荷造り用のビニール紐とハサミといった、具体的な目当ては無いけどなんとなく運ぶのに使えそうなものを用意する。

 穴の部屋で窓ちゃんを待っているうちに、佐々也を運んでこのはしごを登らないといけない事にやっと気が付いた。いままで引き渡した後の運びやすさばかりを考えていたけど、地下から家まで運んでくるのも大変に違いない。

 自分の迂闊さに対して途方にくれていたら、窓ちゃんがはしごを上ってきた。

 今持っているのはなんの荷物かと聞かれたので、佐々也を運ぶための準備だと答えた。はしごを登るのをどうしようかと考え中だと。

 窓ちゃんによれば、タオルケットとビニール紐だけで充分らしい。あとは切るためのハサミ。それではしごも登れるとか。

「どうやって?」

「おんぶして固定するの。本当はロープなんだけど紐でなんとかなる。ロープじゃなくて紐だと要救助者の身体を支える所に全体重が乗って痣になってしまったりするんだけど、タオルケットを使えば問題なくなると思う」

「僕でも背負える?」

「背負えると思うけど……、私が運ぶから護治郎くんは危なくないか見てて」

「運ばせて欲しいんだ。おんぶだと体重の分だけ僕の方が安定すると思うし、それになにより佐々也は僕の代わりに眠っているんだ……。それなのに運ぶのまで窓ちゃんにやってもらうわけにはいかないよ」

「……うん、わかった。確かに、おんぶするのは体格差がある方が良いね……」


 地下に降りて、天宮にもおぶって運ぶので良いかどうかを確認した。

「私はおんぶまでしてもらう必要ないと思うけど」

「え? 体は動かないけど佐々也について行くんだろ? 切り離すって言ってたけど、首から下をぜんぶ置いて行くとかなのか?」

「まさか! 残していく部分はもうちょっと少ないよ。私の方が胸像ぐらいになる感じ」

「胸像?」

「いちおう、もう切り離しは済んでるから持ってみて? ちょうど首を持つ感じで、上に持ち上げて……」

 天宮の言葉通りに持ち上げたら。鎖骨の下ぐらいのところで切り離されて、本当に胸像ぐらいのサイズで持ち上がった。

「うわ、きも! これ、断面どうなってる? 見ても大丈夫?」

「大丈夫だよ。他の場所と同じで、ろくな内部構造なんて無いから。いままでも断面なんて何回か見てるでしょ?」

「確かに見てはいるけど、今回のは心構えがちょっとは必要だよ、こんなの」

 恐る恐る見ると、確かにのっぺりしたプラスチックのような断面で、人体切断のような凄惨さは無い。

 とはいえ、喋る首が動いているので、結局のところ非常に恐ろしい感じに仕上がってしまっている。

「まだ作業があるから私のことは運ばないで戻しておいて。えーと、別に元の場所に戻さないで別の場所に置いてもいいけど」

「いや、戻すよ。……さすがにいくら天宮でも友達の生首を地面に置く気にはなれないし、置くのにちょうどいいような場所もないから」

「あ! でも、明日になったら身体の方は収穫機に近づけておいて欲しいかも。不要になったら回収するんだけど、収穫機が近い方が回収には便利になるから」

「回収? ああ、わかったよ。神妙な気持ちだったのに、天宮と話してたらなんだかバカバカしくなってきた……。なんならいま体を動かして、首だけ椅子の上に置いておこうかな」

「それでも別に大丈夫だけど」

「僕の方が無理だよ……」

「そうなの? とりあえず今晩中は身体の方も作業があって回収もしないから、どっちでもいいんだけど。あ、そうだ、佐々也ちゃんと私を運ぶのは九時にしてもらえる?」

「あと二時間後ぐらいね。わかったよ」


   *   *   *


 遅い時間になるけど悪くなかったかと窓ちゃんに改めて聞いたら、そんな事よりやちよちゃんのことが心配だからと言ってくれた。

 お礼ではないけど、あまり上手ではない料理を作ってご馳走することにした。

 冷凍のひき肉と玉葱のみじん切りを使って缶詰のソースをアレンジしたスパゲッティーのミートソースと、冷凍ほうれん草の付け合せ。自分だけならほうれん草までやらないけど、今日はお客さんなのできちんと盛り付けるところまでやった。

 ミートソースは少し多めになってしまったけど、残しておけばやちよちゃんも食べるだろう。

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