8月4日(木) 17:30 護治郎
諸々が千々に降下してくる夏々の日々
第十八章 夏の夜空に飛ぶイルカ
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8月4日(木)
17:30
護治郎
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天宮と色々と話しをして、実際に佐々也を東京に送るための手筈を整えるとなると、物理的にやらなければいけないことが結構あることが分かった。
具体的には佐々也と天宮を地上に運ぶことと、東京に運んでもらう時の準備を整えておくこと。それから佐々也が東京で目覚めた時に必要なものを用意すること。やちよちゃんに天宮を同行させるよう説得すること。
叡一くんが運ぶと言っていたから、抱えて持ちやすいように佐々也を用意しておいた方が良いだろうし、佐々也の荷物もコンパクトに纏める必要がある。
そういえば二人はともかく天宮も一緒に運べるのだろうか?
どれぐらい運べるのか叡一くんに聞こうと思って携端のメッセンジャーで呼び出してみても、応答してくれない。連絡先は学校用の携端だったから、置いたまま外出しているということなのだろう。
叡一くんが持ちきれないというような最悪の場合、佐々也のスクーターを借りたりして東京に僕が荷物を届ければ良い。窓ちゃんから深山にお願いしてもらうのも良いのかもしれない。この方法ならば半日ぐらで荷物を届けられるはずだ。とはいえ急いでも半日ぐらいは佐々也と天宮が離れることになってしまうから、できればそうでないほうが良い。
天宮にこの離れている時間の事を相談したら、佐々也の生命維持に特化した小型端末をその場で作ってくれた。
魚の意匠があしらわれた銀色のヘアピン。
少なくとも一日は佐々也の状態を維持できるし、出力の弱い通信能力もあるそうで、通信環境が存在すればその後も天宮がモニタリングや生命維持の指令なんかをするのに使えるのだそうだ。
ヘアピンだと言うので適当に髪の毛にくっ付けたら、窓ちゃんに直されてしまった。ちゃんと可愛く付けたんだそうだ。ヘアピンの可愛い付け方なんて僕には判らない。
まず最初に、佐々也を抱き上げて地上へ運ぼうとしたら、天宮に止められてしまった。
まだ少しだけこの場所でやりたいことがあるから、天宮は最後にしてほしいし、佐々也は天宮のそばに残してほしいという事だった。
「とりあえず今は、佐々也ちゃんに持たせる荷物とか、叡一くんに引き渡す時の準備とか、やちよちゃんとどうやって話をつけるかを考えたりしておいて」との事だ。
やちよちゃんについてはあんまり考える必要はなかった。
窓ちゃんが交渉の場に立ち会ってくれると言ってくれたので刃物の問題は解決した。窓ちゃんにしてみれば、やちよちゃんは簡単に制圧できるらしい。
天宮のことはその席で普通にありのまま説明するしか思いつかない。仮に交渉が上手くいかなくても、ヘアピンがあるから天宮は荷物と一緒に僕が運べば良いし。
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そういう色々な準備をするために地下室から戻る。
地上の部屋に出て、ふと思い出したので、自室に戻ってTOX予報の現在状態をちょっと確認してみることにした。
落下予想地点は相変わらず東京。
でも予報円の中心は北関東方向に北上している。
ネットの評判を確認してみると、二回連続でTOXが襲来した南東北の村について言及しているものもいくらかはあるようだった。折瀬の近辺が過疎地であることは地図を見ても明らかなので、なにか研究所のようなものがあるのではないかという情報を集めるためにソーシャルメディアで情報提供を呼びかけてる人も居るようだった。
やはり、佐々也は連れて行ってもらわなければいけない。
TOXが来るだけじゃなくて、その後の社会からの追求もあるんだった。