……8月3日(水) 19:00 親水公園:やちよ・叡一
諸々が千々に降下してくる夏々の日々
第十八章 夏の夜空に飛ぶイルカ
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「まだるっこしい喋り方だな。あ、これは喧嘩を売ってるんじゃないよ。えーと、指摘だ」
「いや大丈夫。でも、これで僕は慣れない言葉を喋ってるんだから、少しぐらいうまい喋り方でなくても見逃してもらいたいところだけどね」
「慣れない言葉? ああそういえば、お前はイルカだったっけ! イルカって普段喋るのは日本語じゃないのか? もしかして」
「違うよ、もちろん。言うなれば僕の母語はイルカ語だ」
「あー、つまりあんたは外国語で喋ってたのか。それはあたしが悪かった。あんたは難しい言葉も知ってるし、あたしより日本語が上手いぐらいだよ。上等なもんだ」
「また急に褒めるね。でも僕の方も、君の言うことに興味が出てきた。地球の全体は石の塊だけじゃない。つまり生物相まで含めたいわゆるガイア理論だとおもえばその観念自体は珍しくないけど、別次元への知性の折り畳みがそこに加わるとまた別の姿が見えてくるよ。ひとつ疑問なのは、そこになにがあるのか、君も地球も知らないっていうのはどうしてだい?」
「どうしてもなにも、あんただって自分の体の中になにが入ってるか知らないだろ?」
「いや、知っているけど……。でも僕が知ってるのはそれを知っている人から教育を受けたからであって、自分で見て知っているわではないね。ふふ、そういえば、こんな話を一ヶ月ほど前に安積さんともしたのを思い出したよ」
「安積さん? ああ、佐々也ちゃんのことか。確かにに佐々也ちゃんが気にしそうなことだ。私の方も、あんたの話し方にちょっと慣れてきたよ。そもそもあんたがうんざりしてる事には、私にも心当たりはある。他所で抗生教の話をされてる時にスピリチュアルとかアニマとか、人間の頭の中にある整った所からはみ出た部分と実際の出来事を見間違えて私に言ってくる人は多い。そういうのにうんざりしているという事なら、私だって同じだ。まぁ、私は立場が強いからただ無視すればいいけど、あんたはまだその高階者っていうのを探してる途中で、私ほど強い立場じゃないもんな」
「お気遣いいたみいるよ。じゃあ、もう少し具体的な話をしよう。決行は明日夜一〇時。僕は神指くんの家の前で待ってればいい、だっけ? 東京に行くとなると家の前は難しいから、上でもいいかな?」
「上? どういうこと? ……まぁ、合流できるならどこだっていいよ」
「それは助かるよ。それで君は安積さんを連れてくるから、二人を載せて東京に出発という計画だったね。乗るところ……は、お客様用とは言えないけど小さな格納庫があるからそこを使わせてあげよう。それで僕が空を飛んで東京に到着、と。ざっくりとしているけど、これ以外は無いという計画だね。でも、話によると安積さんは眠っているはずだよね? 君一人で連れてこられるのかい?」
「それはなんとかなる。遅いから窓も居ないし、刃物か何かで脅して護治郎にやらせるつもりだ」
「それは物騒だな……。でも、彼は武闘派とはとても言えない温順な性格だからそれでも行けるだろうね。乗り降りは心配することないよ、僕が補助するから」
「乗るだけだろ? 補助なんて要らないよ」
「少し高くなってるから、ちょっと乗りにくいんだ。まあ、でも心配しなくていい。こっちでなんとかするから。道中……は、別に心配な事はないな……」
「時間はどれぐらいかかるの?」
「ここから東京までなら距離にして約三〇〇キロメートルだから、前後合わせて六〇分はかからないはずだよ」
「車よりずっと早いね。でも前後ってなに?」
「発進到着フェーズと加減速さ。僕の身体は地球にはあまり向いていないせいで空を飛ぶときには君たちの乗る自動車よりもだいぶ手間が掛かるんだ。それから到着の後、つまり受け入れ体制だけど、これはおまかせしてもいいかな?」
「ああ、任せておいてくれていいよ。あたしがひと声かければ誰だって受け入れは大丈夫だ」




