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諸々が千々に降下してくる夏々の日々  作者: triskaidecagon
第十八章 夏の夜空に飛ぶイルカ
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8月3日(水) 17:00 幹侍郎部屋:護治郎

諸々が千々に降下してくる夏々の日々

 第十八章 夏の夜空に飛ぶイルカ

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8月3日(水)

     17:00

     幹侍郎部屋

       護治郎

━━━━━━━━━━


 不意に携端に着信があった。

 呼び出し元は佐々也。

 そういえば佐々也の端末はやちよちゃんが持っているはずだ。

 出先でなにかトラブルでもあったんだろうか?

 魁が一緒のはずだから、滅多なことも無さそうなもんだけど。

「はい。護治郎です」

「知ってる。ハルカだけど、平気?」

「天宮か! 自分の名前で呼び出ししてくれよ。佐々也の端末持ってるやちよちゃんかと思ったんだよ」

「あ、ごめん。そこまで気が回らなくて」

「僕には気を使わなくてもいいから、謝る必要ないよ。幹侍郎のことが上手く行ってるならなんの問題もない。……上手く行ってるんだよね?」

「まぁ順調だよ。順調ではあるんだけど、ボディ部門でちょっと決断のいる事があって、護治郎くんの意見を聞きたいんだよね」

「意見? 僕の意見なんて関係ある?」

「あるよ。受け入れる時の気持ちの問題だから。つまりね、幹侍郎ちゃんの身体には根本的な欠陥があるんだ。あと頭のエミュレーションとの相性がよくない部分があって、まとめて解決する方法があるかもれないってこと」

 不穏な発言だ。

 根本的な欠陥とか、相性が良くないとか、聞きたくない言葉すぎる。

 ついさっきの言葉『上手く行ってる』ってのは何だったんだか。

 できれば拒んで聞きたくないけど、そういうわけにもいか……。

「ちょっと待って! 心を落ち着けるから」

「心を落ち着ける? 別に現状より悪くなるような深刻な話じゃないよ? ……いや、悪くはならないけど、深刻なのは深刻かもしれない」

「深刻だけど悪くない話なんてないだろ!」

 自分の表現を言い直す。

 なんとなく天宮らしくないような、小さな違和感を感じる。何事にも正確な天宮らしくないとでも言うような。

「もう面倒くさいから待たずに話すね」

 急にぞんざいになった。

 気を使うなと言ったのは僕だから、口を挟まずに次の言葉を待つ。

「幹侍郎ちゃんの身体の根本的な欠陥はメンテナンス性が無いこと。人間は細胞が死んだとしても代謝で入れ替えたりということをしているんだけど、幹侍郎ちゃんにはその機能がない。いままで短い時間しか運用してなかったから故障もしてなかったんだろうけど、今後、どこかが故障したら直すのが難しいんだよ。言い換えれば電池切れが最初の故障だったってわけ」

「……うん」

 故障、なんてこれまで考えたこともなかった。

 幹侍郎は病気はしないだろう、ぐらいのことは考えたこともあるけど。

 これまで僕の機械が故障しなかったわけじゃない。でも、故障したものを修理する必要はなかった。

 そもそも能力的に劣った機械だから惜しくないし、同じ物が必要になったらまた出せばいい。

「最初に説明していた単純置き換えをすると、この問題は生まれ変わった後にも変わらず維持されてしまうことになる。電池の充電のことも併せて解決を模索しようとしているんだけど、私の手には余りそう」

「つまり、どうにもならないと?」

「ずっと頑張り続けたらいつかはできるかもしれないけど、もうゼロから新生命を生み出す神みたいな事を私がやるっていうのと殆ど変わらないということになるよね。手に余るっていうのはそれぐらい大幅に余ってるの」

「……それでも無理って言わないでくれるは、ありがたいと思うよ」

 自分の声の様子が明らかに暗くなったのが自分でもわかる。

 でもここで天宮を敵に回すのはもっと悪いので、悪態をつかないように(つと)めて言葉を選んでいる。

「次は相性の話ね。幹侍郎ちゃんの脳をエミュレータにするっていうことになったよね。つまり頭脳に関しては単純置き換えと同じタイプの故障の問題は発生しない。けど、脳のエミュレータの故障と電源の対策が別途必要になるわけ。これを準備するのはすごく簡単。私自身の身体と同じ銀沙細胞系統でいいから。ただ、幹侍郎ちゃんの新規系統と脳系統で、それぞれの故障対策とエネルギー対策。つまり哺乳生物で言えば代謝にあたる部分そのままなんだけど、そういう二系統を用意して矛盾無く繋ぎ合わせなければいけなくなってしまっている。あっ、もしかして喋りすぎた?」

「いや平気。身体と脳を別のものとして作って繋げなきゃいけないから、組み合わせるのも大変だってことだよな?」

「うん。それで合ってる。そこでこのふたつの問題をまとめて解決しやすくする方法を思いついた、と言ったら興味を持ってくれる? 護治郎くん」

「解決? できそうにはとても思えない問題だったけど……」

 どちらも重大な問題で、とても深刻だった。

 思っていた深刻さとは違う。なんだかすごく即物的というか機械的な話だったけど、たしかに無視してしまうと行く末は悪い方に向かう。そういう意味での深刻さだ。

「新しい身体の仕組みを作り上げるのは難しいけど参考にできるものがあれば別に専門家でもない私でもどうにかできるっていうのと、ふたつの系統を接続するから難しいのであって、同じ系統内に組み込めば矛盾も出ない、ことはないけど矛盾は少なくとも減るんだ」

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