8月3日(水) 16:30 幹侍郎部屋:窓
諸々が千々に降下してくる夏々の日々
第十八章 夏の夜空に飛ぶイルカ
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8月3日(水)
16:30
幹侍郎部屋
窓
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今の状況は、佐々也ちゃんの着替えを終わらせて、天宮さんは椅子に座ったまま微動だにせず、護治郎くんは幹侍郎ちゃんと佐々也ちゃんと天宮さんをチラチラと気にしながらなにか考え込んだり、その辺をウロウロしたり。
なにかに似ている。
……ドラマで見た病院の待合室かもしれない。
私自身は実物を見たことがないけど、マンガとかドラマ番組ではこんな感じだった。
実際には重傷者の治療待ちの場所に居合わせたこともある。
とはいえ私がやっている前線戦闘員としての役割からすると、そういう傷病者がいる状態で待機になっていることはかなり少ない。
そういう時は防衛隊の任務に関わっている状態なので、近くに患者の身内は居ないし、立ち会いの人たちにもそれぞれやることがあるので、いまの護治郎くんのように心配だけを主な仕事にしている人は居なかった。
こういう時、私は護治郎くんにどうしてあげればいのか……。
苦しんでいる間に疎かになってしまうことを代わりにしてあげられるといいのだけど、掃除洗濯なんかの身の周りのことをしてあげるのはなんとなく恥ずかしい。護治郎くんにも恥ずかしがられてしまう気がする。
私が代わりにできそうなことは……。
ああ、思いついた。
やちよちゃんの面倒を見るのと、眠った佐々也ちゃんの身体のお世話をするのは、私がやった方がいいのだろうと思う。
佐々也ちゃん、三日ほど眠ったままだと言っていたから……。
ハルカちゃんが様子を見ているようだから身体の状態として死んでしまうことは無いだろうと思うけど、栄養と水分は心配だ。この場所で、お医者さんの手を借りないで点滴をするのは難しいと思うけど、水分は溺れない様に気をつけて湿った綿を含ませるみたいな方法で補給してあげるべきかもしれない。
サバイバルの教則によれば安静にしていれば飲まず食わずでも三日ぐらいは比較的簡単に生き延びることができるはずだ。
眠っているなら安静だから、三日なら大丈夫だろうか?
それを過ぎたら、もしかしたら救急車を呼ばないといけないかもしれない。
* * *
今ここに居ないやちよちゃんにしてあげられることは後回しにして、佐々也ちゃんのお水とタオル。それを私の役目にすることに決めた。
「用事を思いついたから、私、行くね」と護治郎くんの邪魔にならないように小さな声で口から言葉を出すだけ出して、その場を立ち去る。
地上に出てから、以前から持ち込まなように習慣付けていた個人用の携端を穴の部屋のいつもの物置台から取り上げ、行動のメモを護治郎くん宛にメッセしておく。
佐々也ちゃんのお水とタオルの用意。
バスタオルとハンドタオルをとりあえず数枚づつ。それから買い置きの大きいミネラルウォーターを三本と、水分を口に運ぶ用のお皿と脱脂綿は……見付からないから、とりえずティッシュペーパーを箱で。
厨房とお風呂場をそれほど荒しもせずこれらのものを見繕うことができた。
まずはこれを地下に運んで、タオルを佐々也ちゃんの頭の下に敷いて、少しだけ水を口に含ませた。開放空間だから気休めだけど、タオルを一本水浸しにして、枕元に置いて、少しでも湿気をつくる。
流石にこれだけ作業をすると護治郎くんからも声をかけられるので、水分が心配だからその準備という説明をした。
そうしたら、ありがとうと褒めてもらえた。
「情けない……。僕は自分が気になる心配ばかりで、佐々也のことなんてなんにも考えてなかった」
「こういう時はそういうものだから、気にしないで……。お互い様だから」
「……うん。ありがとう……」
護治郎くんはそうは言うけど項垂れてしまった。
私としては、護治郎くんの力になってあげることができて、本当はちょっと嬉しいぐらい。
だけど、喜んでいるような場合ではないから今は言わない。
口下手な私も、いつかそういうことを伝えられるようになるといいのだけど。




