……6月21日(火) TOX襲撃、三日前:真宮窓
諸々が千々に降下してくる夏々の日々
第二章 遙か彼方のあの星の流転の果ての悠久の……
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人の移動の制限は過密になってしまうことを防ぐことを目的にしているので、あまり人が住んでない折瀬に引っ越してくるのは……。
「……人口が少ないならおかしくないと思うけど」
「それはこれまでの話で、コンプレキシティ――つまりリスク――が高まっているにも関わらず引っ越しをしてきたんだから、これは怪しいと思う」
「イルカの地図が単に間違ってるんじゃないの?」
そもそも、そのイルカのコンなんとかの地図がTOXの落下地点を正確に予測できるなら、もっとしっかり活用されていると思う。
「間違ってるなんて言ったらなんにもならないでしょ。合ってるとして、だよ。低リスクの地域ならともかく、高リスク地域への人口移動が許可されてるんだから」
「そうは言っても、イルカの地図と引っ越しのAIの地図が似てるって噂を真に受けて決めつけてるだけでなんの証拠にもならないし。それに、買い物での移動とか旅行とか数人単位の移動は普通に許可されてるのだから、一人ぐらい転校してきたって変わらないと思うのだけど……。怪しいって決めつけるのは早合点じゃないの?」
話を聞いても人口とリスクというのの区別を付ける理由がそもそもわからない。もちろん、人口が少ないところでも宇宙ミサイルの工場を作ったらTOXが来たという話は知っているけど、そういう大きな施設なんかもないのにリスクが上がる理由がわからない。折瀬にはそういう工場とかはなにも無い。
「そうね。怪しいとまでは行かないかも。コンプレキシティもイルカ頼りで人間には確かめようが無いから、存在自体がマイナーというかあまり知られてない指標なんだよね。リスクファクターマップが秘匿情報で見れないから、コンプレキシティを参考にしてるだけだけど」
「だったら、あんまり簡単に人を怪しむのは良くない」
「えっ!? 違う違う。天宮さんが怪しいからどうこうしてやろうという話をしたいわけじゃない」
優花子の言うことはよく分からない事もある。
騙されてるかもしれないと思う時もある。
けど、優花子は私に嘘をついたことはないから、きっと騙されている気がするのは誤解なのだろう。
「……怪しいんじゃないの?」
「ちょっとはね、怪しい。でも、怪しいから天宮さんが悪いことをするとかじゃなくて、代わり映えのしない田舎暮らしになにか目新しいことが起きるかもしれないってこと」
優花子はそう言って目を輝かせている。
私には優花子が言っていることが望ましいことなのかどうかがよく分からない。
この子は賢い子だから、目新しいことが起きないと飽きてしまうのかもしれない。毎日同じでつまらないというのは私にはない感覚だ。特別なことは時々あればいいし、佐々也ちゃんみたいな面白い友達がいたら楽しく暮らしていける。
「あ、そうか……」
「どうしたの?」
「その……、私がもう少し面白い事を言えたら良かったのになって思ったの」
「なにそれ? 窓は別に面白いこと言わなくてもいいよ。その方が窓らしいし」
優花子が不思議そうに私の顔を見ている。
(私が優花子を退屈させてるとしたら悪いと思って)というのが真意だけど、言うと怒られるから言わない。その代わりに「そうね」とだけ言っておく。
私はあまり賢くないし、喋るのも上手くない。
それでもこういう時に言葉を濁しておけばごまかしやすい。
こういうところはちょっとだけありがたい。
「なに笑ってるの?」
優花子の目で見ると、今の私の顔は笑ってるらしい。
「笑ってない。口下手だと思って、自分に呆れてるの」
「いいよそれで。その分わたしが喋るんだから」
優花子がそう言って、背中をぽんぽんと叩いてくれる。
でもそれじゃ、優花子が飽きるのを止められない。
そういうところがわたしの不甲斐なさだ。
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6月22日(水)
TOX襲撃、二日前
真宮窓
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翌日、テレプレで学校に参加したところ、天宮さんは佐々也ちゃんと仲良くなって、一緒に授業を受けているようだった。
佐々也ちゃんのすることは相変わらず突飛で予想がつかない。
次に顔を合わせるときには、なにがきっかけで仲良くなったのか聞いてみよう。




