……8月3日(水) 8:00 リビング自室:護治郎
諸々が千々に降下してくる夏々の日々
第十七章 無能者にも役割はある。
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地下に到着して、実際に寝ている佐々也の姿を二人に見てもらう。
広い地下室でも幹侍郎に近い側の遠くの端、天宮の収穫器の近くに布団が敷かれていてその上に普段着のままの佐々也が横たわっているのが、入口近くのデッキからでも見える。
天宮は佐々也の枕元に椅子を置いて座っていた。
まだ遠いけど大声で呼んでみたものの、天宮は座ったまま微動だにしない。
実際に近づいてみると、天宮は不自然なほど動かないままだ。
まったくピクリとも動いていない。
生物なら呼吸ぐらいするものなのだけど、それもない。
なにしろ天宮は普通の意味での生物ではない。確かめたことはないけど、呼吸なんて不要なのかもしれない。ただ、呼吸程度の微かな動きもないせいで余計に動かないことが目立っているような気がする。
実際に目前まで来てみると、天宮は動かないだけでなく、目を開けたままである事がわかった。
目を開けて眠る人もいるというのは聞いたことがある。
とはいえ、普通に眠っている人ならまぶたが痙攣的に動いたり他所の呼吸音が聞こえてきたりするものなのだけど、そういう微小な兆候も一切ないので非常に不穏な感じがしてしまう。
幹侍郎の時に感じた分と同じ種類のものだ……。
「休んでるだけなら起こすと悪いけど……。でも、こう動かないと心配になるな」
「うん……」
窓ちゃんも暗い声だ。同じことを思い出しているのだろう。
ちょうどここで、僕の携端で通話コールの呼び出し音が鳴った。
無視しようかと思ったけど、手間のかからないことだからいちおう確認。
天宮からだ。……間の悪い。
天宮!?
「あ、通話来た。魁かな?」
ちょうど同じタイミングでやちよちゃんにも通話が来たらしく、即座に通話に出ていた。
「はい! え? ハルカ? スピーカー通話? なにそれ? 護治郎! ハルカがわからないこと言ってくるよ」
そういいながら、やちよちゃんが携端を僕に渡してきた。
いろいろなことが同時に起こったので少し戸惑ったけど、考えてみれば自分の側の携端もどうせ天宮なのだし後回しにするつもりでもあったので、それはポケットに戻して、やちよちゃんから渡された携端を素直に受け取る。
見覚えのある携端。
やちよちゃんは佐々也と同じ機種を使ってるらしい。
いや?
つけてるアクセサリーも同じか?
「あれ、これはもしかして佐々也の携端?」
「そうだよ。昨日の夜から借りてるの」
借りた携端の通話にあんなに簡単に出ちゃっていいのかと思ったけど、相手は天宮だから結果的に別に問題はなかった。
やちよちゃんは常識に疎いようだしなにか一言注意した方が良いかもしれないとも考えたけど、出来事がゴチャついているのでとりあえず今はやめておく。
佐々也の携端、当たり前のように触ったことがあるので、操作は知っている。
手間取らずにスピーカー通話に切り変えた。
「……い。おーい」
携端からは天宮がこちらに呼びかけてくる声。
「聞こえるよ。天宮なのか?」
「そうそう、私。いまね、計算量節約してるから体を動かすのしんどいんだ。全力で作業中なだけで死んではいないから。じゃあ、もう切るね」
言いたいだけ言うと通話が切断されてしまった。
「……だって」
二人の顔を見回す。二人共なんとなく呆気にとられた様な表情をしている。
「ちょっと僕もぜんぶにはついていけてないんだけど、幹侍郎の事はこんな感じで進めてくれているみたいなんだよ。だから、もう天宮に任せるしかないみたいな感じになってて……」
「そう……、だね」
窓ちゃんは僕の言葉に納得してくれたようだ。
「じゃあ、私は佐々也ちゃんに寝間着を着せるね。えーと……」
「来客用の浴衣がそこにおいてあるから、それでお願い」
「下着はある?」
「下着!? あ、いや、そこまで頭が回らなかった。すぐとってく……」
「ううん。護治郎くんはやらなくていいよ。午後また私が来て、色々やるから。佐々也ちゃんの下着、どこにあるか知らないでしょ?」
「そうだね。……知らない。でも、佐々也の部屋で捜せば……。いや、それはやりたくないな。窓ちゃんはどこにあるか知ってる?」
「どこに入ってるか、ぐらいは」
なんで? と思ったけど、口に出すのが憚られるので黙ることにした。
忙しい中、窓ちゃんが佐々也の着替えに取り掛かろうとしてくれている。