……8月3日(水) 8:00 リビング自室:護治郎
諸々が千々に降下してくる夏々の日々
第十七章 無能者にも役割はある。
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「やちよちゃんも居るし、今日も休みだって言っておくね」
「お願いします。えーと、一段落したらまた防衛隊に連絡をいれるので、それまでは行けないと思うって伝えてくれると……」
「うん。そうするね」
「それで、あの、できたら隊に行く前に佐々也ちゃんにも会いたいから……」
「あ、うん……」
窓ちゃんはそう言いながら、玄関ホールの階段に向かおうとする。
どう説明しようか、また同じところで言い淀むことになってしまった。別に僕自身が後ろめたいわけでもなんでもないんだけど。
「佐々也ちゃんは地下で寝てるってさ」
僕の後ろで話を聞いていたらしいやちよちゃんが代わりに説明してくれた。
「地下で? 自分の部屋じゃなくて、地下で寝てるの?」
「私は知らないよ。いままでその話をしてて、護治郎になんで地下で寝てるか聞こうとしたら白虎が来たんだ」
「護治郎くんに聞いた……。そうだ、やちよちゃん。私のことを白虎って呼ぶのはやめて。窓が名前だから、窓って呼んで」
窓ちゃんは堅い声でやちよちゃんにそう告げる。
防衛隊で大人相手に話している時と同じ、親しみの感じられない凛とした声だ。いい声だし、毅然としていてかっこいいとも思うけど、よく見知った気安い幼馴染という感じがしなくなってしまって僕は居心地が悪い。
「窓……。これでいい?」
「うん。それでお願い。……それで護治郎くん、佐々也ちゃんが地下で寝てるって、なにかあったの?」
窓ちゃんが堅い声のまま僕にも質問してきた。
佐々也になにか有ったのではないか心配なんだろうと思うけど、僕がなにか悪いことをしてしまったような気分になってしまう。窓ちゃんに対してなにも疚しいところは無いにも関わらず。
「……うん。じゃあ説明するね」
「ごめんね護治郎くん。その前にその話、長いかどうかだけ聞きたい。……三〇分したら行かないと遅刻になっちゃう」
「三〇分はかからないと思うんだけど、窓ちゃんにはお願いがあるからギリギリになるかも……」
「うん……」
「じゃあまず、佐々也と天宮のところに行こう。歩きながら説明するよ。僕もどうなってるか気になってるんだ。そうだやちよちゃん、朝ご飯は後回しになるけど、ごめん」
そう言って二人を地下に誘導しながら昨夜のことを話した。
天宮に幹侍郎を生き返らせる様にお願いたこと。頭の大きさの問題を解決するために人間の脳活動の観察が必要であること、その観察は能力者でない方が都合がいいこと。そこに偶然佐々也が居合わせていて、志願して睡眠薬を飲んでしまったこと。佐々也は三日ぐらい寝たままになるらしいこと。
歩きながらで口を挟みにくかっただけかもしれないけど、二人相手にじっくり説明することができた。
地下に到着して、実際に寝ている佐々也の姿を二人に見てもらう。
まずは遠くから。
広い地下室でも幹侍郎に近い側の遠くの端、天宮の収穫器の近くに布団が敷かれていてその上に普段着のままの佐々也が横たわっているのが、入口近くのデッキからでも見える。
天宮は佐々也の枕元に椅子を置いて座っていた。
まだ遠いけど大声で呼んでみたものの、天宮は座ったまま微動だにしない。
休憩なんて要らないようなことを言っていたけど、もしかしたら眠っているのかもしれない。座ったままで器用なことだ。
返事がないのでそのまま近づいていく。
見ての通り佐々也が昨日の服装のまま眠っているので、寝間着に着替えさせてあげてほしいということを窓ちゃんにお願いした。僕がやるわけにもいかないからというと、窓ちゃんは即座に了承してくれた。
この話をしている間、いや少し前からか、やちよちゃんはなにが気に入らないのか眉根を寄せて険しい表情をしていた。元々の顔立ち的に目力が強いので、この年頃の女の子には似つかわしくないぐらいの迫力がある。
まぁ、何も言わないなら、気にしても仕方のないことだけど。




