……8月3日(水) 0:00 幹侍郎部屋:護治郎
諸々が千々に降下してくる夏々の日々
第十七章 無能者にも役割はある。
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「あと、これはどれぐらい寝てるんだい?」
「終わるまで、と言いたいんだけど、栄養とかの問題もあるから、三日ぐらいで少なくとも一回は起きてもらうことになるね」
「三日も!? 思ってたより全然長いな……」
「薬の量のこともあるから、あんまり自由に寝てる時間を変えられないんだよ。観察だけならもっと早くに終われる可能性だってもちろんある。材料もあるし、さっき言ってた頭五倍のやつだといますぐ銀沙の構築を始められるんだけど、それでも一日ぐらいはかかると思う。まぁ、この場合は佐々也ちゃんに眠って貰う必要はほとんど無いんだけど、でも薬は効いてるから三日は寝てる」
「ほとんどなの? 皆無になるのでは?」
「その場合はつまり幹侍郎ちゃんのミニチュアを作ることになるのに近いわけだけど、そう簡単に動くと思う?」
「それは作れば普通にうご……。いや、あのロケットみたいにまっすぐ飛ばないとかがあるのか……」
「そうね、そういうこと。生き返りみたいなことをするときには、ダイモーンだとしてもあのロケットみたいに飛びはじめてから本当は真っすぐ飛んでなかったみたいなことはできるだけ減らしたいの。そのための部分的なシミュレーションとかテストとかが必要になる。普通のダイモーンならそこの手順はマニュアルがあるから本当に余裕がなければ省略もできるけど、幹侍郎ちゃんにはそういうのもないからテストしたりすることを省いたりできないわけ」
「わかった。佐々也はもう寝かせとくしかなんだな……。だったらせめて布団ぐらい持ってくるよ」
天宮の発言は冷たいと思ったけど、聞けば不合理ではなかった。
それどころか善意でさえある。佐々也が言っていた誤解というのはこういうことであるだろうし、僕が信じた善意は覆っていない。正しい見立てだったのだと思う。
抱えていた佐々也の身体をソファに戻して横たわらせた。
布団以外にも持って来れるものがあるはずだと思い、その場で立ち止まって確認する。
「パジャマ……、は着替えさせられないな。それは窓ちゃんに頼もう。あと、いま思いつくのは枕ぐらいか……。とりあえず布団と枕だけでいいか。それで、天宮はいまからどういう感じで進めるんだ?」
「まずは仮動作する幹侍郎くんの頭脳をミニチュアの銀沙細胞での再現模型を作るための銀沙細胞のデザインと生成。仮組み、動作確認、対応確認テスト、でこの辺で佐々也ちゃんの出番になるかなぁ。そこからそのモデルをエミュレータ化してエミュレーションを銀沙細胞でアッセンブリしていって、それと並行で人間の脳との相互確認テストをして……、この辺まで行ったら全体作業量の見込みが立てられるようになってくる感じだと思う」
「……つまり、元になる素材のデザインからしなくちゃいけないし、各段階に挟まってくるテストの場面で佐々也が必要になるわけだね。……それをどこか省くわけには……、その顔だとダメそうだね。わかった。いや、言ってることの半分も分かってないけど、僕が抵抗して良いことは無いのを理解した」
「私が言ったことの半分も理解してないなんてこと無い、というか九割ぐらい理解してる様に思うけど……」
「そんなことないよ。各段階でどういう作業が発生する見込みなのかさっぱりわからない。まぁ、僕の理解度なんてどうでもいいよ。さっき言ってた、佐々也が次に起きないといけない三日後までにどれぐらい進むつもりなんだ?」
「え? この先まで全部終わらせて、幹侍郎ちゃんが目覚めるところまで行くつもりだけど?」
思ってたより全然早い。せいぜい幹侍郎の頭脳のエミュレーションの完成品の目処が立つぐらいだと思っていた。
僕が思ってたところまでだとしても嘘みたいに早いはずだ。でも、それ以上に進めるつもりだと言っている。
もちろん早く終わることに異議があるわけではないし、むしろ早ければ早いだけありがたいけど、いま聞かされた作業手順から考えると、天宮は膨大な量の仕事をたったの三日に詰め込むことになるんじゃないだろうか。




