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諸々が千々に降下してくる夏々の日々  作者: triskaidecagon
第十七章 無能者にも役割はある。
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8月3日(水) 0:00 幹侍郎部屋:護治郎

諸々が千々に降下してくる夏々の日々

 第十七章 無能者にも役割はある。

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8月3日(水)

      0:00

     幹侍郎部屋

       護治郎

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「じゃあ、おや……」

「佐々也っ!」

 眼の前で喋ってた佐々也が、言葉の途中で眠り込んでしまう異常な事態に、我知らず叫び声が出た。

 ソファまで数歩の距離を駆け寄って、倒れ込んだ佐々也の身体の背中を支えて抱き上げる。

 抱える身体に力が入ってないのでぐにゃっとしているし、背中を持ち上げたらかくっと首が折れてしまった。力なく首が折れている状態は危ないような気がしたので、背中の上の方を支えていた腕を動かして後ろ側から頭を支える。

 両手が塞がっているので口元に耳を近づけ、なにか聞こえないか確認しようとした。

 かすかに、呼吸音が聞こえるような気がする。

 僕が大慌てをする(かたわ)ら、天宮は特に何事もないように淡々としている。

「大丈夫。寝てるのと同じだよ」

「薬を飲んだ直後、喋ってる途中なのにいきなり眠るなんてことあるか?」

「寝息が聞こえるでしょ? 薬の効きが良いのは麻酔の成分を代謝の作用に任せるわけじゃなくて、マイクロドローンが自律で直接届けたから。狙いも外さないし、適量で投与できるから副作用なんかも無い優しい投薬になってるよ」

「麻酔! 意識が途切れるタイプの麻酔ということは、人工呼吸器とかそういうのが要るんじゃないのか?」

 医療ドラマとかで見る、昏睡患者の口の周りを透明なプラスチックのカップで覆っている、ああいうやつのことだ。

「補助は私がやってるから大丈夫。ノウハウがあるし」

「ノウハウ?」

 天宮がしれっとそんなことを言っている。

 ノウハウってなんのだ?

 天宮の任務であるという単独宇宙探査に、人間を即座に眠らせる麻酔のノウハウなんて必要あるか?

「私達ダイモーンにもそれなりに対人間用の救護規則があってね。分枝前の私――ということはここで再生成する前の私ってことだけど――は、理由(わけ)あって子供好きでね。子供たちのアトラクションの添乗をしたりするために、結構しっかり救護規則を身に付けてたんだよ」

理由(わけ)?」

 再生成前ということは、宇宙探査の為ためでなく、一般のダイモーンとしての生活上で身につけた技能というわけだ。

 たしかに一般人の僕も、反省会で参加させられてる防衛隊の研修で簡単な応急措置を習ったし、救護資格を取得できる資格試験のガイダンスは受けた。一定以上の救護は医療になり、無資格での医療行為は違法になるとも教えられた。

 そういえば、意識を失わせる強烈な麻酔は違法な医療である可能性も強いのか。これは佐々也に限らない、僕が眠っていた場合でもそうだ。ついこの間は銃刀法違反で、今度は無資格の医療行為。

 厳密に法律的な扱いでの執行猶予中ではないけど、違法行為のお目溢(めこぼ)しをして貰う代わりに研修を受けている事実上の執行猶予中に、また別の違法行為に関わることになっていることに若干の引け目を感じる。

 でも法律はこの場合どうでもいい。

 僕が黙っていれば裁かれる事はない。

 一方で資格が要るということは、一定の危険があるということでもある。心配するなというのが無理な話なんだけど、天宮が居たという世界はこの地球から見ると一万年程度は科学技術の格差があると言っていたから、驚くような科学技術が存在して安全な麻酔も存在するかもしれない。これまでの経験上、天宮は人間の危険に無頓着ではない。

 その天宮がこう言うなら、大丈夫なのだろう。

 経験的な根拠もある。納得したほうが良い。

 それよりも気になるのは「理由(わけ)あって子供好き」の部分だ。子供好きに理由なんて要らないし、言う必要もない。なにか裏があるのではないかと勘ぐってしまう。

 くだらないと自分でも感じるけど、一度不安を感じ始めるとどうしても次々と不安が広がってしまうのだ。

「理由はあんまり気にしないで……。というわけにもいかなそうだね。……はぁ、仕方ない。もうさっき言っちゃったから良いかな。あのね、ダイモーンは最初は人工知能だったと言ったでしょ? 私、つまりハルカはね、一番最初に生まれたときは女の子向けアイドルゲームのコンパニオンボットだったんだよ」

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