6月21日(火) TOX襲撃、三日前:真宮窓
諸々が千々に降下してくる夏々の日々
第二章 遙か彼方のあの星の流転の果ての悠久の……
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6月21日(火)
TOX襲撃、三日前
真宮窓
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「ねえ窓。あの転校生、なんかきな臭いと思わない?」
天宮ハルカさんという名前の銀髪の転校生が来た日、いつもと同じように並んで歩く帰り道、優花子がそう言って話しかけてきた。
「……きな臭いって? 特にこれという匂いはなかったと思うけど」
「怪しいって意味。こんなところに転校生なんて」
「そうかな……。私は、怪しいかどうか分からない。その……、お友達になりたいとは思ったけれど……」
優花子は賢い。私はどちらかというと頭が悪いから、優花子の心配事を理解できない場合が多い。私と優花子はそういう役割分担になっている。
「コンプレキシティってあるじゃない?」
「ええと……、優花子が前に教えてくれたやつ? TOXが落ちて来やすい場所のことだよね?」
「うーん、正確には違うんだけど、だいたい合ってる。要はTOXの標的になりやすさの指標ね。有志のイルカたちが地図上の塗り分けの形で提供してくれている」
「うん、そうだったね」
どこが違うのかあまり良く分からない。それは要するに落ちやすい場所のことなんじゃないのだろうか。優花子に聞けば説明してくれるし、聞けばなるほどとは思う。思うけど、要するに同じだという思いは消えない。
賢い人には重要な違いかもしれないけど、私ぐらいだと、TOXが来やすい場所だということを知っていれば充分に役立つと思ってしまう。
「折瀬はここ半年ぐらい急にコンプレキシティが上がってたでしょ?」
「……そう言ってたね」
「そこに、転入があるのが怪しい」
「そうなの? 引っ越しの管理は人口を元にAIが許可の判断をしているんでしょ? イルカのそのコン……コンなんとかとは関係ないはずだけど」
「人口移動管理は大規模学習AIがTOXの到来実績と地域人口や産業評価のマトリックスから独自の基準でリスクファクターを算出して判断してる。そのリスクファクターのマップは公開されてないけど、その非公開データにアクセスできる人が実際に比較してみたら、コンプレキシティはリスクファクターのマップとほぼ同じだったらしくてさ」
正直、なにを言っているのか、あまりよく分からない。
こういう時、優花子は私に話して聞かせていると言うより、話すこと自体が目的で、話している途中で考えがまとまったりするらしい。だから、わからなくてもそれとなく相槌を打って話を続けさせてあげるのが親切だ。
ええと、公共のリスクファクターマップが公開されていないのは、それを公開して個々人の移動の基準にしてみたら却ってTOXの襲来を誘ってしまったことがあるからだ、と聞かされている。公開したことによって悪い影響が出たので公開を差し止めた。そういう話だ。
そのマップを見て移動するなら人の少ないところに行くんだから良さそうなもんだけど、そうではなかったわけで、TOX襲来の基準は結局は謎なのだ。
優花子が言うにはその非公開のリスクファクターマップとイルカの出しているコンプレキシティのマップが近いから……。
「この集落はリスクファクターも高いはずだから引っ越してくるのはおかしいってこと?」
「そうそう。おかしいと思わない?」
「ここは元々人が少ない地域だから、引っ越し自体は許可されやすいって聞いてるよ……。それでも、引っ越してくる人、少ないけど」
「この集落にはなにがあるわけでもないからねぇ。麓の町なんかには転入出が結構あるって聞くけど」
麓の町。つまり学校がある迂川郷よりもっと先にある大きな町。
県内で何番目かの人口の大きな町なので、お店なんかも一通り揃っているし、遊びに行くようなところもある。その、ここよりもだいぶ賑やかな麓の町でも出入りが頻繁にできるぐらい。
人の移動の制限は過密になってしまうことを防ぐことを目的にしているので、あまり人が住んでない折瀬に引っ越してくるのは……。
「……人口が少ないならおかしくないと思うけど」




