……8月2日(火) 23:00 神指邸
諸々が千々に降下してくる夏々の日々
第十七章 無能者にも役割はある。
――――――――――― ――――――――――― ―――――――――――
「小さくなって生まれ変わりの方をお願いしたい」
ゴジの依頼を受けて、ハルカちゃんは慌てず騒がず頷いた。
「うん、わかった。でも、それならそれでまだ問題があるの。解決のできることではあるんだけど」
「どんな?」
「銀沙細胞で、幹侍郎ちゃんのシナプスのエミュレーションを作る時、オンリーワン過ぎて稼働するものかどうかもわからない。だから人間の脳と逐一照応して稼働状態の正常さを確認したいの」
「ああ、うん。上手く行ってるかどうか途中で確認するのに、そのまま同じものが存在しないから、似た感じのものを使いたいとかそういうことだよね? 良いと思うけど、それをするためになにか解決する必要があるんだよね?」
相変わらずゴジの理解が早い。
昼からいままでずっとその事を考えていたのだろうから、素地があるということなのだろう。
「つまり、その……。人間の脳のサンプルを観察できるといいんだけど……」
「サンプル? 観察って……、具体的にどんな? 解剖する必要があるとかか?」
たしかに脳のサンプルと言われると、非常におどろおどろしい印象がある。
「解剖はいらないな。観測機を持ったマイクロロボットに実際に動作している脳のニューロンとシナプスを観察させてほしいんだ。それで動作中のニューロンとシナプスを観察して、エミュレーションの機械に反映させる感じ」
「うん、なにをしたいかは分かった。それで僕はなにを用意して、用意したものに何をさせればいい?」
「誰かに眠ってもらって、マイクロドローンの入ったカプセルを飲み込んでもらえれば……。あ、いや、眠ってもらうのはマイクロドローンを飲んでもらった後でもいいから、必要な時に薬を飲んで私の近くで眠ってもらうことかな」
「脳にマイクロロボットって危険じゃないの? 観察って言ってもカメラで見るわけじゃないでしょ?」
黙って見ていようと思ってたんだけど、気になったのでつい聞いてしまった。
「実績のあることだから危険ではない、はず。正直に言うと、私はやったこと無いけど、手法はライブラリにあるから」
「手法があるなら、結果もライブラリにあるんじゃないの?」
「あるけど、それは作業記録であって、脳内のニューロンとシナプスのシミュレーションモデルってわけじゃないんだよ」
「うん、わかった。必要だから言ってるんだもんな。……それなら僕でやってくれていいよ」
即決だ。普段なら心配性で比較的未練がましいゴジとしては珍しい。
何事も場合によるということだろう。なにして遊ぶか決めるときと今とでは、態度が違うのは自然なことだと思う。
私は、ハルカちゃんが言っていることの情報量が多くて、理解することに手一杯となってしまい相変わらず咄嗟に話についていけない。
「護治郎くんはその……、能力者がサンプルになっていると完成品への反映が上手く行かないかもしれないから……」
「え? なんで?」
「能力者の脳は、普通の人間とは違う働きをしている可能性が高いから。もちろん同じ働きをしている部分があるのも間違いないんだろうけど、精密に観察できるならともかく、唯一になる初号のサンプルとしては不適切というか……」
「それは仕方ないことだ。いいよ、それで」
ハルカちゃんが申し訳無さそうに答えるものの、ゴジはじれったそうにそう言って返す。
……。
……なるほど、そういうことか。




