……8月2日(火) 18:30 神指邸前庭
諸々が千々に降下してくる夏々の日々
第十七章 無能者にも役割はある。
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中に戻ると、ゴジと窓ちゃんが地下から上がってきたところだった。
やちよちゃんを見つけたことを二人に伝えて、晩ごはんにすることにした。
とはいえ急に旅行から帰ってきた感じで、私とやちよちゃんは用意がないので、コンビニにお弁当を買いに行くことにした。
ゴジに買い物をしてくることを伝えたけど生返事だった。これは仕方ないか。
窓ちゃんは家に帰るというので、一緒に家を出た。
コンビニに向かいながら、川はここだよと教えてもらったり、手では魚を捕まえられなかったとかそういうとりとめのない話をしたり、道中で家に帰る窓ちゃんと別れたり、私が通っている学校の場所を教えてもらったりした。
得たばかりの知識を披露するのが嬉しいというのは分からなくもない。
そんな感じでやちよちゃんとコンビニでご飯を買って来て食べた。
その後、やちよちゃんにせがまれて、私の端末でたまに連絡を取った。挨拶の後、そのまま携端はやちよちゃんに渡してしまう。やちよちゃんはたまと通話をしたいということなので、携端はそのまま貸しておく。
私はせっかく帰ってきたので、一度実家に顔を出しに行く。
五分かからないけど。
これはもう、やちよちゃんはこの短い間にたまのことを好きになってしまったのだろう。考えてみれば中学生ぐらいだから、そういう年頃だ。
個人差のあることで私はこういう感じにはならなかったけど、テレプレで顔を合わせ続けたクラスの友達たちは、中二といえばこういう症状の子たちがたしかに増えてきた時期だった。
実家では東京に居るはずの娘が急に帰ってきたということで驚かれた。
なぜということはぼかしたまま、ユカちゃんに車で迎えに来てもらったから半日もかからなかった、意外と東京は近いという話をした。
私は年頃の娘としてはかなり放任されている方なんだろうと思う。これは私が両親から厚く信頼されているからという面より、なにかを諦められているからだろうとは思っている。「悪事をするなり身持ちを崩すなりにしても、たかのしれた範囲に収まるだろう」という程度の信頼はされているとは思うけど。
家では、番組のことや東京のことを色々と話した。
「小さい頃からあんたはなんか普通じゃない人になるだろうとは思っていたけど、ストリーマーになるとはねぇ」みたいなことも言われた。「ああ、うん。でもストリーマーになったわけじゃないよ。私は東京に連れて行ってもらっただけで、ストリーマーになりたいのはぞっちゃんだからね?」「持ちギャグまであるのに?」「持ちギャグじゃないよ。近所の子たちと話してるときに合図をやってみせただけで、それがなんとなく広まっちゃっただけだから」「そうなの? 職場で自慢しちゃったけど……」「職場で! やめてよ、恥ずかしい」「恥ずかしくないでしょ、可愛い可愛いって褒めてくれてるんだから! 佐々也になんて言われても、やめないからね」「まぁ、それはいいけど、私はもう番組には出ないよ?」「そうなの? レザミ・オリセも解散なの? 私はみぞれちゃん派なのに……」「えっ、そこで私じゃないの!?」「ほら、やっぱり未練があるんじゃん」「無いけど! ちょっと驚いただけだよ」「解散イベントがあったら教えてね? 行くから」「解散もなにも、そもそもなにも結成してないし、イベントもないから!」みたいな、本当にくだらない話をした。
そんな感じで二時間ぐらい話してから切り上げ。
ゴジの家に帰ると言ったら、「そういえば護治郎くんは窓ちゃんと仲良くなったみたいだけど、あんたはうちには帰ってこないの?」ということを聞かれた。
つい一瞬迷ってしまったのだけど「私がゴジの家にいるのはハルカちゃんとゴジの二人きりで住まわせられないからで、ゴジが誰と付き合ってるとか関係ないよ」と、本来の目的を説明しなおすことになった。「そういえばそうだった」だってさ。
そうなんですよ、なんとなく色々ありすぎてそれどころじゃなかったけど、実は私はゴジとハルカちゃんの世間体のために住み込んでるんです。でも、私もちょっと忘れてた。




