……8月2日(火) 17:45 幹侍郎の部屋
諸々が千々に降下してくる夏々の日々
第十七章 無能者にも役割はある。
――――――――――― ――――――――――― ―――――――――――
なんで五倍になるのか、こまかい理屈は気になるけど、今は細部について聞き出してもあんまり意味がない。
対処を考えて行くべきなのだろう。
「どうにかできないものなの? えーと、ハルカちゃん、とりあえずその置き換えとかについてもうちょっと詳しく教えて? 」
「どうにか……。今のところ一様の構造で確認してみただけだから、どうにかできるかどうか計算中。えーと、結果が出るまでの間に、とりあえずご希望どおりもう少し詳しく説明しようか?」
「うん、お願い」
「まず幹侍郎ちゃんの身体ってかなり大きかったでしょ? スナップショットで確認したところ、幹侍郎ちゃんの身体は全体的に小さな独立した機械の集合ではあったんだけど細胞の置き換えをするような作りではなかったからサイズ的にはだいぶ余裕があって、言うなれば密度が低かったの。それに対して頭というか脳に当たる部分も同じように機械でできてはいたんだけど他の部分とは異質で、仕組みとしてはシナプスが発火して連鎖していく人間によく似たような機構になっていた。細胞を機械に単純に置き換えてるのかどうかまではわからないけど、とにかくかなり密度が高い作りだったのね。それで頭のサイズにたくさんの機械が収まるように、ひとつひとつの機械が小さくてたくさんあった。つまり、脳だけ機械の密度が稠密だったのね。私の銀沙細胞は基本的にサイズ感は一様だから、その部品のスケールの差――つまり五倍ぐらいってことなんだけど――が単純置き換えだと発生してしまうことになる」
立て板に水のごとく、ハルカちゃんが溢れるように話してくれた。
ところが情報量が多すぎるせいで、密度の話をしてることと結果的に五倍になる事しかわからなかった。多分、単純置き換えというのがどういうことか、という話なんだとろうとは思う。小さく作り直すということは要は全ての部品を小さくするということで、それをしようと思ったら……。
黙念と頭を捻っていると、ゴジが聞き返していた。
「ごめん。頭がぼんやりしてるみたいでよくわかんなかった。もう一回言って欲しい」
非常に思い詰めた表情の真剣な目つきをしており、見た目的にはとてもそのようには思えないけど、ゴジはぼんやりしていたらしい。
とはいえ、ゴジの心情を思えば普通の説明が上手く頭に入らないのも無理はない。
「わかった。ちょっと言い換えるね。ここで単純置き換えって言ってるやり方は同じ働きで大きさを十分の一にしたミ二チュアの銀沙製の部品に置き換えること。もし全部この置き換えをすると、幹侍郎ちゃんの身体をいまのサイズ一六・八メートルから一・六八メートルにすることができるということになる。調べたところ、身体のだいたいの部分はこの十分の一のミニチュア部品を作ることができて、置き換えをすることが可能。その上、そのまま機能させることもできる見込み。でも脳にあたる部分だけは銀沙で十分の一サイズの部品を作ることができない。計算上いまの半分のサイズの部品しか作れないのね。これぐらいサイズが違うとちょっと工夫しても収まるような感じじゃないから、どうしようかなって」
部品のサイズの話だったのか……。
思ってたのよりだいぶ即物的な話だ。
しかしちょっと言っていただけの身長の事が気になってしまった。
一・六八メートル。
幹侍郎ちゃんって十分の一にすると身長一七〇センチぐらいになるのか……。
私よりだいぶ大きいけど、ゴジよりは小さい。ぞっちゃんがそれぐらいだっけ? まぁ完璧に人間サイズだけど、なんか解釈違いだ。
幹侍郎ちゃんのことは弟的な小さくて可愛い感じでイメージしていた。
ぞっちゃんとかみたいに大きいからと言って可愛くないとかじゃないんだけど、幹侍郎ちゃんのイメージだと私より小さいとまでは言わなくても、見上げるほど大きいのはなんか違う。
それはともかく、要点は掴めた。
「なるほどそういうことか……。部品のサイズね……。じゃあ、大きい方に合わせて全体を二分の一にすることは?」
「できる、と思うけど……、その場合でもいくつか問題があるかも」
「問題?」
問題という言葉にはゴジが敏感に反応する。




