……8月2日(火) 17:45 幹侍郎の部屋
諸々が千々に降下してくる夏々の日々
第十七章 無能者にも役割はある。
――――――――――― ――――――――――― ―――――――――――
「ハルカちゃんにお願いした? ゴジがなんでそのスナップショットっていうのを欲しくなったの?」
「幹侍郎を小さくできないかと思って」
「小さく? またなんでそんなことを……。いや、分かるか。地下から出してあげたいもんな。小さくなったら出られる。でもどうしてハルカちゃ……。そりゃハルカちゃんだよな、そんなことができるとしたらハルカちゃんだわ。……なんか当然のことのような気がしてきた」
いま受け取った情報を頭の中で整理し直す。
幹侍郎ちゃんを小さくするために、ハルカちゃんのあの銀色の細胞容器をマイクロロボット発着と情報収集の基地に変異させて、東京に行っている間に幹侍郎ちゃんの身体の情報収集をしていた、ということか。それで、スナップショットを作成ということは、情報収集が終わったってことなのかな?
つまり、なんでハルカちゃんが幹侍郎ちゃんを生き返らせることができるようなデータを持ってるかと言うと、事前にゴジが相談していた幹侍郎ちゃんを小さくするための下調べのための調査が、偶然流用できるってことのようだ。
上手いこと行き過ぎのような気もするけど、幹侍郎ちゃんを小さくしたいという気持ちそのものは理解できるし、銀沙細胞という超テクノロジーを持っているハルカちゃんに相談してみることも理解できなくもない。
「つまり要約すると、幹侍郎ちゃんを小さくする計画があって、東京に行ってる間にその準備が整ったってこと? スナップショットっていうのはその準備?」
「まぁ概ねそんな感じ」
「それで、そのスナップショットがあると、なんで幹侍郎ちゃんが小さくなれるの? 身体なんて小さくなるものじゃないでしょ?」
「小さい体に作り変える、みたいな感じ」
「身体を作り変える!! そんな事ができるの!?」
幹侍郎ちゃんの身体を作り変えて、実際の子どもぐらいのサイズの幹侍郎ちゃんになる姿を思い浮かべる。いまと同じ姿なら外見は異常かもしれないけど、異形の人間としては、東京で見た子どもたちと同程度の違和感に収まるだろうという気はする。
「できるかどうか、それを調べるところから始めたわけ。とはいえ、幹侍郎ちゃんっていう謎の生命がどういうふうに動作してるのかもわからないし、小さく作り変えるなんていうことができるかどうかも分からなかったから、それでその下調べに使うためのスナップショットができたみたいなのが現状かな」
「それで、調べてみたらできそうってこと?」
「それはまだ計算中。あっ、結果が出た……。うーん、不可能ではないけど問題が出るところがあるね」
「不可能でない? 問題?」
ハルカちゃん答えに、ゴジが食いつく。
まぁ、私としても同じことを聞くつもりはある。ここでは反応速度で負けたので先に言われちゃった感じだ。
「単純に置き換え再構築をすると、頭が大きくなってしまうのよ。えと、計算によると五倍ぐらい?」
ハルカちゃんの言葉で、頭だけ大きい漫画のデフォルメキャラクターみたいな姿がぼんやり思い浮かんだ。
「五倍。……五倍!? なんで頭だけ?」
五倍というサイズのただ事でなさに気がついて、つい声が出てしまう。
形だけ思い浮かべたらなんだかユーモラスだけど、実際に生き返った幹侍郎ちゃんが行動しようと思ったら大変な障害になるはずだ。
普通のドアを潜るのだって難しいぐらいになるだろう。
「簡単に言うと、幹侍郎ちゃんの体に当たる部分と脳に当たる部分で、部品になっている機械の性質が違うから、ということなんだけど」
「そうなの?」
と、ハルカちゃんの説明を受けてつい製作者のゴジに聞いてしまった。
「僕は幹侍郎の仕組みなんて知らないよ……。そうだったんだ、ってぐらい」
「ああ、そうだった。ゴジは中身のことは知らないんだったね」
「そうだよ。悪かったね」
「悪くないよ。けどまぁ、知ってれば電池切れたりしないよね、そういえば」
「……うん」
つい口から出てしまったけど、ゴジは悔しそうにしている。
そのゴジの手に、横からそっと手を添えてる人が居た。
む、うちの護治郎ちゃんと手を繋ぐなんてどこの女よ、と思ったけど、窓ちゃんだった。
こういうのってこういう感じかぁ……。
相手が窓ちゃんでも、なんかちょっと来るものがあるなぁ……。
前に冗談で言った泥棒猫って言葉、言う方の気持ちってこういう感じなんだなぁ。なるほどなぁ。
気を取りなおして……。
なんで五倍になるのか、こまかい理屈は気になるけど、今は細部について聞き出してもあんまり意味がない。
対処を考えて行くべきなのだろう。




