8月2日(火) 17:45 幹侍郎の部屋
諸々が千々に降下してくる夏々の日々
第十七章 無能者にも役割はある。
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8月2日(火)
17:45
幹侍郎の部屋
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「これで、幹侍郎ちゃんの物理的スナップショットを作成したから、それを使って生き返らせることができるかもしれない」
ハルカちゃんから幹侍郎ちゃんの話を聞いている。
幹侍郎ちゃんが動かない理由はエネルギー切れ。でも構造的に充電ができない。ただし、いまさっきまでハルカちゃんが触っていた銀沙の箱のスナップショットを使えばなんとかなるかもしれない。
なんとかなるという言葉を聞いたとき、窓ちゃんが話を一旦止めてゴジを呼びに行った。
「……かもしれない?」
窓ちゃんに連れて来られたゴジが聞き返す。
目つきが尋常でない感じというか、焦点が定まりすぎている感じというか、普段とはすごく違う。
こういう感じのゴジはどこかで見たことがある。
いつのことだったか……。
ああ! 去年の今頃、今にして思えば幹侍郎ちゃんを生み出していた時期のゴジだ。思い出せてスッキリしたけど、良い兆候ではないので喜びはない。
あの頃は焦点が定まっている先がどこなのか不明だったから上の空に見えてしまっていたけど、あれは私と対面していた時もその場にはいなかった幹侍郎ちゃんに焦点を定めていたんだろうな。
その感じのゴジが、ハルカちゃんに詰め寄ってる。
「かもしれないってどういう事? 単純な可能性?」
「これまでにやってみたことがないから、どの程度の確からしさで成功できるかわからない、という意味。具体的に失敗する見込みがあるわけじゃないよ」
「……そうか……。そうだね……」
言葉の問題だと分かったらしくて、ゴジはそれ以上は言わないで聞く態勢だ。 ゴジには不思議と通じているようだけど、私としてはハルカちゃんの言っている言葉の意味から理解できていない。
「物理的スナップショットってなに? それと、そのピカピカの掃除ロッカーみたいなふしぎ道具ってなにするものなの?」
「ふしぎ道具……。別にふしぎな所は無いんだけどね……」
私の言い方のせいで、むしろハルカちゃんがショックを受けている。
聞き流してほしい。
「……まぁいいか。これはさっきも言ったように前から置いてあった私の銀沙細胞の生成容器バージョンツー。東京に行く前にいくつか命令を変えておいたから
自己再形成してツーになったんだ。命令っていうのは、保存しておく銀沙細胞の量を増やすことと、それから幹侍郎ちゃんをスキャンするマイクロボットの基地にして、スキャンした内容をスナップショットの形で情報を蓄えておくこと。それから変更した機能に適した形になること。それで、この形になったわけ」
「なんでハルカちゃんが急にそんなことを……」
なんというか、ここにきて知らずに居たような話が多い。
どうしてハルカちゃんが急に幹侍郎ちゃんの観察記録みたいなものを作り始めたりしたんだ……。
「それは僕がお願いしていたんだ」
これはゴジ。
つまりゴジとハルカちゃんの間で話が通じてるのは、事前にこの件で交渉があったからということになるわけか。正常だ。
「ハルカちゃんにお願いした? ゴジがなんでそのスナップショットっていうのを欲しくなったの?」
「幹侍郎を小さくできないかと思って」




