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諸々が千々に降下してくる夏々の日々  作者: triskaidecagon
第十六章 生きているのか死んでるか。そもそもそういう問題だ。
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……8月2日(火) 17:30 やちよ:折瀬・大回り

諸々が千々に降下してくる夏々の日々

 第十六章 生きているのか死んでるか。そもそもそういう問題だ。


――――――――――― ――――――――――― ―――――――――――

「悪かったって。怪我はない?」

「怪我? してないよ」

「それなら良かった。……どうする? まだ魚を捕まえる?」

「いや、魚はもういいや。そんなに簡単には捕まえられないみたいだし」

「なかなか手掴みじゃ難しいよね。濡れちゃったし、帰るなら送っていくよ。どこのお客さんだい?」

「え? 誰かって言うなら佐々也ちゃんのお客かな? でも、送ってくれなくてもいいよ」

「佐々也ちゃん? ああ、安積さんちか。じゃあ行こうか」

 そう言って魁は私の方に手を差し伸べる。

 せっかく差し伸べてくれたから手を掴んでみたけど、足元は階段になっているから頑張って引っ張ってくれなくても歩いて上れる。でもまぁ、手を貸してくれるのは悪い気はしない。

「いいよ、送らなくて。もしかして魁は暇なの?」

「……実は、そう。暇なんだよ。なんか最近、急にみんながよそよそしくなったというか、忙しくなったみたいでさ。みぞれちゃんと佐々也ちゃんはストリーマーになるし、護治郎は前から佐々也ちゃんを独り占めしてたのに急に窓ちゃんと付き合い始めたらしくて、深山はもともとあんな感じだし、うちに居る居候もあんまり遊んでくれる感じの人じゃなくてね」

「?」

 知っている人の名前は出てきたものの、なにを言ってるのかあんまりわからない。

「ああ、ごめん。愚痴になっちゃったな。安積さんちなら、佐々也ちゃんはいま留守にしてて、君も暇なんじゃないの?」

「佐々也ちゃんはもう帰ってきてるよ。言ったでしょ、私は佐々也ちゃんと一緒に来たんだから」

「え? 帰ってきた? だったら教えてくれてもいいのに、水臭いな……。あれ? 佐々也ちゃんと一緒に来たの? 君は東京の子? あっ! やちよちゃんか! ガイドの! どおりで見たことある気がしてたんだよ」

 よれひーの番組を見ていたのか、急に理解してくれた。

 本当は私はガイドじゃないんだけど、それは隠してたんだから魁が知らないのはしょうがないことだ。

「見たことある気がしてたなら、そう言えばいいのに……」

「女の子に、どこかで見たことある気がするなんて言ったら、ナンパみたいで嫌かと思って」

「ナンパ? あたしを?」

「え? ち……、違うよ! 可愛い子だから、勘違いされちゃうかもなってこと!」

 その発想はなかったから、勘違いもしなかったと思うけど……。あれ?

「可愛いって言った?」

「あっ! 違うよ? 勘違い! そういう意味じゃない!」

「やっぱり可愛くはなかったか……」

 ゾミーちゃんやハルカちゃんとも知り合いだろうし、わたしがいま着てるものだって配給の可愛くない服だ。神楽のときのおめかしを見てもらえば、可愛いと思ってもらえるかもしれないけど。

「それも違う! 可愛いよ! あっ……」

 魁はそう言って顔を赤くしている。

 こうなってくると、ほんとはどういう意味なのかは分からない。

 私の能力で地球に確かめても分からない。

 地球は魁のことには興味がないらしい。まぁ無いだろう。よっぽど特別な生き物でもない限り、個体の好みどころか、生き死ににも興味がないぐらいだもんな。

 川から上がるとき、いままでなんとなく繋いでいた手をちょっと引っ張って、手を借りている気分を味わった。川から上がって、魁の前に立つ。

「それより、暇ならイルカを探すのを手伝ってくれない? この辺に居るって佐々也ちゃんに聞いたんだ」

「イルカ? この辺のイルカと言えば叡一くんだと思うけど、叡一くんならうちの居候だよ。いまは出かけてるかもしれないけど」

「え? それは話が早いな。私はイルカに会いたいんだ」

「じゃあ、家に来てみる? いまは居なくても、そろそろ帰ってくると思うし」

 すぐにイルカに会ってしまうとせっかく仲良くなった魁とは話せなくなってしまう。

 なんとなく、まだ握ったままの相手の(てのひら)を意識する。

 ……もう少し魁と遊んでいたい。

「それならもう少しこの辺を案内してよ。私、東京の外は珍しいんだ」

「そっか。じゃあ、そうしよっか。……なんにも無いところだけどね」

 そう言って魁が振り向いて歩き出した。

 それに合わせて、ごく自然に繋いでいた手がほどける。

 手を追いかけてもう片方の手を繋ごうかと思ったけど、そういう雰囲気でもない。

 そのままついて行く。足元には、水に濡れた靴が、黒い足跡を残す。

 夕方より一つ手前ぐらいの時間帯。

 まだ日があるけど、風が吹いていれば意外と涼しい。

 少し先で魁が歩みを遅らせて、振り向いて待ってくれていた。

 隣に並んで歩く。

「しばらく歩いてたら、乾くかな?」

 魁が私に聞いてくる。

「たぶんね」

 本当はたぶん無理だけど、乾かないと言ったら家に帰されてしまうかもしれない。

 だから嘘をついた。

第十六章 了


次回更新は、年を跨いで1月1日の予定です。

なぜ更新が遅れるかについて、活動報告で釈明しています。

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